目次
- IT点呼とは?
- IT点呼の導入で得られるメリット
- IT点呼システムの導入で押さえたい5つのルール
- 点呼システムを導入する際の5ステップ
- IT点呼システムを導入する際の注意点
- IT点呼システムの導入は補助金の活用も視野に入れて
DX化やRPAが推進される昨今、運送業を営む方や長距離ドライバーの方にもIT化の流れは波及しています。その最たる例として紹介するのが「IT点呼」。国交省の広報でも取り上げられたため、ご存知の方も多いでしょう。

日々の点呼業務を、IT化によって遠隔で完了させられるだけでなく、時間や場所的な制約が解消されるため業務効率化にも繋がります。 本記事では運送業に就いている方に向けてIT点呼の概要やメリット、導入方法を解説。守らなければならない法令にも触れつつ、分かりやすく紹介します。
IT点呼とは?

まずはIT点呼の概要を解説します。
運行管理者と運転者が非対面で点呼を行うシステム
IT点呼は、日々の点呼業務をIT化によって変革し、リモートで完結するよう仕組み化された新たな手続きです。具体的には、これまで対面で行うよう定められていた「点呼」の業務をIT化し、運行管理者と運転者とがオンラインで対面するだけで点呼業務を完了したものと見なせます。
そもそも運送業を営む場合、車両の運転者だけではなく「運行を管理する存在」を設置しなければなりません。この存在を運行管理者と呼び、運行管理者と運転者が発車前に行う面談を「点呼」と呼びます。
点呼は長距離運行による事故の防止や運転者の安全を守るための制度。運行管理者は運転者の酒気帯び運転を抑止したり、体調不良のまま発車することを未然に防いだりすることが求められます。
具体的にはどのような流れで行われるのか、詳しく見ていきましょう。
1.IT点呼システムを立ち上げる
IT点呼は、専用の「IT点呼システム」を利用して運行管理者と運転者がオンラインで顔を合わせ、点呼を行います。運行管理者と運転者の双方でIT点呼システムを立ち上げ、パソコンやスマートフォンといったIT機器で顔を映せるよう、準備を行いましょう。
必要な機器については後述しますが、ビデオやマイクが内蔵されているパソコンやスマートフォンを用意しておくことをおすすめします。
2.アルコールチェッカーで酒気帯び確認
IT点呼システムを通して点呼を行ったら、「アルコールチェッカー」と呼ばれる機器を介して酒気を帯びているか否かを検査します。まずは運転者の手元にあるアルコールチェッカーで酒気を計測。その結果はソフトウェアを通じて点呼を行う運行管理者に通知されます。
3.パソコン・スマートフォンを使用して対面
酒気帯びの確認が完了したら、パソコンやスマートフォンを使用して運行管理者と運転者が対面。 音声や画像の乱れがなければ、対面で行う際と同様に点呼へ移行します。
4.点呼を開始
対面時と同じ流れで、法令に基づいて点呼を実施します。
5.運行業務開始
点呼に問題がなく、規定値を超えるアルコールが検出されなければIT点呼は終了です。運行業務に移りましょう。
業務の効率化や負担軽減が可能に
IT点呼を導入すれば、業務の効率化はもちろん、労働者の負担軽減にも繋がります。従来の点呼では双方が対面しなければならず、運転者が出発する前に運行管理者と対面する時間が必要でした。
この手間を削減できれば、一日に何度も点呼業務のために時間を取る必要がなく、運行管理者や運転者にとっては大きな負担軽減に繋がります。
また、点呼をオンタイムで行うには、運行管理者が営業所に常駐していなければなりませんでした。営業所を複数持つ企業は特に人員の確保が難しく、運行管理者の不足が事業の拡大や維持のネックとなっているケースも少なくありません。
IT点呼は遠隔で点呼を完了させられるため、運行管理者を営業所に常駐させる必要がありません。IT点呼を導入すれば人材面での効率化や負担軽減の一助となるでしょう。
IT点呼の導入には国土交通大臣の認可が必要
点呼業務は事故の防止や運転者の安全管理の観点から見ても重要な位置づけの業務で、点呼内容や実施義務は法令で定められているほど。そのため、IT点呼に際しても様々な制約があります。
例えば国土交通大臣が認めたシステムを使うことだったり、国土交通大臣の認可を受けていたりといった条件をクリアしないと、IT点呼は認められません。細かな条件は後述するので、導入を検討している事業者の方は参考にしてみてください。
電話点呼よりもメリットの多いIT点呼
IT点呼とよく似た「電話点呼」という方法も存在しますが、IT点呼は電話点呼に比べて利便性の高い方法と言えます。電話で点呼できるのであればIT点呼と違いはないように思えますが、電話点呼とIT点呼には条件面で違いがあるため、あらかじめ注意が必要です。
電話点呼の場合、点呼を行う運行管理者は「運転者が属する営業所の人材」でなければなりませんが、IT点呼にはこうした制限はありません。異なる営業所の運行管理者も点呼を実施できるため、点呼時間に合わせて運行管理者を設置しておく必要がないのです。
限られた人材を効率的に活用できると言えるでしょう。
IT点呼の導入で得られるメリット

ここからは、IT点呼の導入で得られるメリットを見ていきましょう。大きく以下の2つのメリットに焦点を当てつつ、詳しく解説します。
- 人材不足解消の一助になる
- 点呼記録の作成や管理がしやすくなる
人材不足解消の一助になる
IT点呼を導入すれば、人材不足を解消する一助となります。先述したとおり、IT点呼によって限られた人材を有効活用したり、業務効率を向上したりできれば、既存の人材だけでもスムーズに業務をこなせるようになるでしょう。
また、IT点呼を導入したとしても点呼時間に合わせて運行管理者を設置する、という義務は生じますが、「どの営業所の運行管理者でもいい」となれば、人材を確保する難易度も大幅に下がります。
点呼記録の作成や管理がしやすくなる
IT点呼を導入すれば、点呼記録の作成や管理にかかる手間を削減できます。点呼を実施した際は、点呼内容を記録し、点呼簿として保管しておかなければなりません。
IT点呼はこれらのデータを自動的に記録できるため、大規模な事業者であればより大幅な業務効率の向上が見込めるでしょう。アルコールチェッカーの結果や行き先、車両番号などのデータと紐付ければ、点呼業務のDX化にも繋がります。
IT点呼システムの導入で押さえたい5つのルール

IT点呼システムを導入する際には、法令を遵守した適切な運用が求められます。ここでは、IT点呼を導入する前に覚えておきたい5つのルールをご紹介。
- 全日本トラック協会が認定する「Gマーク」を取得する
- 国土降雨宇が認めた機器を使う
- IT点呼を行う営業所と運転者が属する営業所に端末を設置する
- IT点呼の内容は双方の営業所で保管する
- 管轄の運輸支局長に報告書を提出する
それぞれ詳しく見ていきます。
全国貨物自動車運送適正化実施機関のGマークを取得する

全国貨物自動車運送適正化実施機関(全日本トラック協会)が認定した優良事業者は「Gマーク」を取得できます。Gマークとは安全性優良事業所の別名で、法令遵守状況や社会保険の適用状況なども踏まえ、いくつかの評価項目をクリアした事業所にのみ与えられるシンボルマーク。
一般に、Gマークを取得していれば安全性や従業員の衛生管理に関して取り組んでいる優良な事業者として扱われます。基本的にIT点呼を導入・実施するには、このGマークを取得していなければなりません。
ただし、以下の条件をクリアしている事業者の場合は、Gマークを取得していなくてもIT点呼を実施できます。
- 開設から3年が経過している
- 過去3年の間、第一当事者として自動車事故報告規則第2条に規定する事故が発生していない
- 過去3年の間、点呼違反に係る行政処分や警告を受けていない
- 地方貨物自動車運送適正化事業実施機関が行った直近の巡回指導において、総合評価が規定以上
これらの条件を満たしていない場合は、Gマークを取得した上でIT点呼を導入するのが良いでしょう。
国土交通大臣が認めた機器を使う
IT点呼を実施するには、国土交通大臣が認めた機器を使わなければなりません。市販のどのツールでも良いというわけではないため、きちんと確認してから機器を購入するようにしてください。
また、オンラインで対面した際に酒気を帯びていないか視認するためのカメラや、アルコールチェッカーの測定結果を適切に保存・送付するための機器の両方が正常に機能していなければ、IT点呼は認められません。導入前に利用できるツールを確認しておきましょう。
IT点呼を行う営業所と運転者が属する営業所に端末を設置する
IT点呼を実施するには、IT点呼を行う(運行管理者が属する)営業所と、運転者が属する営業所の双方に端末を設置しておかなければなりません。どちらか一方だけでは認められないため、IT点呼を導入する際は、IT点呼を行う営業所をあらかじめ決めておき、準備を進めておきましょう。
IT点呼の内容は双方の営業所で保管する
上記の条件に付随して、IT点呼の内容はIT点呼を行う営業所と、運転者が属する営業所の双方で保管しなければなりません。
IT点呼を行う側は、点呼内容を点呼記録簿に全て記録していなければならず、データは全てバックアップを取らなければなりません。運転者が属する営業所側は、IT点呼を行った人の名前と、IT点呼を実施した事業所の情報を記載します。
管轄の運輸支局長に報告書を提出する
IT点呼は従来の点呼とは異なる手法であり、例外的な方法と捉えられます。そのため、IT点呼を開始する10日前までに管轄の運輸支局長に報告書を提出しなければなりません。
報告書には、IT点呼を行うのはどの営業所なのか、車庫の位置はどこなのか、Gマークの認定番号や認定期間はいつまでなのか、といった内容を記載します。これらの情報をあらかじめ準備しておくと、スムーズにIT点呼を導入できるでしょう。
IT点呼システムを導入する際の5ステップ

IT点呼システムを導入するにあたって必要な手続きを、大きく以下の5つのステップに分けて紹介します。
- 国土交通大臣が認めた機器の中から導入したいシステムを選ぶ
- 必要な周辺機器の用意・設置
- 運輸支局へ申請を行う
- 試運転と従業員へのアナウンスを実施する
- 本格始動
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.国土交通大臣が認めた機器の中から導入したいシステムを選ぶ
IT点呼を実施するには、専用のIT点呼システムを選び、導入します。認可が得られたシステムであれば好きなものを選べますが、非認可のシステムではIT点呼が認められないため、あらかじめどのシステムを導入するのか決めておきましょう。
費用や機能にも差異があるため、自社に適したシステムを選ぶことが大切です。基本的にはクラウド型のサービスを導入しますが、それに加えて後述する専用の周辺機器が必要になります。
2.必要な周辺機器の用意・設置
IT点呼の導入には、以下の周辺機器が必要です。システムと一緒に用意しておきましょう。
デジタルタコグラフ
デジタルタコグラフ(デジタコ)は、次世代型運行記録計とも呼ばれる機器。自動車を運転する際の速度や走行時間、走行距離といった運行情報を、自動的に記録するデジタル式の運行記録計です。
既に導入している事業者も多いかもしれませんが、IT点呼の導入には必要なため準備しておきましょう。
【参考】富士通デジタコのIT点呼機能 https://www.transtron.com/itp/itp-webservice/it.html
点呼管理ソフトウェア
IT点呼を実施するには、IT点呼を管理するシステム(ソフトウェア)が必要です。点呼時のチャットや映像を記録したり、保存したりする際にも使うため、認可を受けているソフトウェアから導入するものを選びましょう。富士通デジタコのIT点呼機能であれば、別途ソフトウェアを用意する必要はありません。
パソコン+ウェブカメラ
IT点呼を実施する運行管理者や運転者は、何らかのICTツールを用いてオンラインで対面しなければなりませんが、その際に使用するパソコンが必要です。パソコンによってはカメラが内蔵されていないこともありますが、その場合は別途カメラを用意する必要があるため、カメラ内蔵のパソコンを用意すると良いでしょう。
プリンター
IT点呼を実施したら点呼内容を保存しますが、これらのデータを印刷して紙ベースで保管する際には必要プリンターが必要です。事業所にプリンターを設置していない場合は、IT点呼を導入する際に用意しましょう。
マイク
IT点呼を実施する際はICTツールを利用しますが、パソコンでIT点呼を行う場合、マイクが内蔵されていない可能性があります。そのような場合はパソコンと接続できるマイクを別途用意しなければなりません。
免許証リーダー
IT点呼で免許証のチェックを行う際には、ICカードで有効期限を読み取る必要があります。免許証を差し込んでデータを読み取れる免許証リーダーを用意しておきましょう。ちなみに富士通デジタコであれば、デジタコに免許証リーダーが内蔵されています。
アルコール検知器
IT点呼で酒気帯びを確認する際には、アルコールを検知する「アルコールチェッカー」が必要です。富士通デジタコならモバイルアルコールチェッカーと連携し、記録を残すことができます。
3.運輸支局へ申請を行う
機器を用意したら、IT点呼を実施する10日前までに運輸支局へ申請を行います。申請書のテンプレートは以下よりダウンロードできるため、案内に従って記入・提出を進めましょう。
また、複数の事業所を保有しており、それぞれ管轄の運輸支局が異なる場合は、全ての運輸支局へ申請を行わなければなりません。
4.試運転と従業員へのアナウンスを実施する
IT点呼を実施する前に機器の試運転を行い、誤作動や不具合がないかチェックを行いましょう。機器に問題がなければ、従業員へのアナウンスとして、各機器の使用方法やIT点呼の手順を説明します。
実務にスムーズに移行できるよう、運行管理者と運転者の間でIT点呼が完結するか確認しておきましょう。
5.本格稼働
準備が整ったら本格的にIT点呼を稼働します。対面点呼からIT点呼へ切り替える場合は、従業員が混乱していないか、システムに不具合が生じていないか、といった点にも注意しましょう。
また、IT点呼で業務効率化や従業員の負担軽減に繋がっているのか、という観点から業務プロセスを最適化するタイミングとも言えます。いま一度、業務の中で改善できるポイントはないか確認してみるのもよいでしょう。
IT点呼システムを導入する際の注意点

IT点呼システムを導入する際は、以下の点に注意しなければなりません。
- IT点呼の実施時間は1日16時間まで
- Gマークの有無でIT点呼の適用範囲は変わる
- 運行管理補助者による点呼も可能
それぞれ詳しく見ていきます。
IT点呼の実施時間は1日16時間までに留める
IT点呼が行える時間には法令上の限度があるため、注意が必要です。1営業日中、連続したIT点呼は16時間までに留めなければなりません。
ただし、営業所と、そこに所属する車庫の間でIT点呼を行う場合は制限はありません。つまり、同一営業所の運行管理者と運転者が、営業所と車庫間でIT点呼を行う場合は、この制限はなくなります。
運行管理補助者による点呼も可能
IT点呼を実施する際、必ずしも運行管理者が点呼を担当しなければならないわけではありません。特定の範囲内であれば、運行管理補助者によるIT点呼も認められています。上手く活用すれば、運行管理者の負担を軽減し、さらにIT点呼のメリットを向上させられるでしょう。
指定されている「特定の範囲」とは「一ヶ月の総点呼回数のうち、2/3を超えない回数」です。1/3以上の回数は運行管理者による点呼でなければならないため、あらかじめ注意しましょう。
IT点呼システムの導入は補助金の活用も視野に入れて
運行管理者や運転者の負担を軽減し、業務効率化にも繋がるIT点呼システム。多くの事業者にとって魅力的な選択肢となるでしょう。本記事を参考に、IT点呼システムの導入を検討してみてください。
また、IT点呼を導入する際には国土交通省が実施する「自動車事故対策費補助金」が利用できる可能性があります。導入にかかる負担が軽くなるため、ぜひ併せて検討してみましょう。
参考:令和4年度自動車運送事業者における自動車事故対策費補助金│国土交通省
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