目次
- 国土交通省が推進する物流DXとは
- 物流DXが求められる背景
- 物流DXで実現できることの事例
- 物流DX化に際しての課題と対策
- レガシーシステム(既存システム)との折り合い
- システムの最適化や各拠点のルール統一を
- IT人材の不足
- 技術重視のDX推進には要注意
- 現場の納得や理解
- 現場への研修や経営陣の自己学習を
- レガシーシステム(既存システム)との折り合い
- まとめ
物流DXは、現在の物流業界が抱える課題解決にアプローチする方法として、大きな注目を浴びています。しかし、その意味を正確に把握して、何ができるのか理解しておかなければ、有効な物流DX化を達成することは難しいでしょう。 そこで今回は、物流DXの意義や求められる背景、具体的な事例、物流DX化に際しての課題と対策をご紹介します。
【関連記事】 具体的な物流DXの事例をお読みになりたい場合は下記の記事をお勧めします。 運送事業者のDX、どうやって進めたらよいのでしょうか?(運送事業者向け)物流DXのカナメ、運送業の「データ」をどうやって取得し、活用するか?(IT企業向け)
国土交通省が推進する物流DXとは

現在、物流DXを実現すべく、国土交通省・経済産業省・環境省など、国が一丸となって推進しています。
2021年には「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」も閣議決定され、今後の物流が目指すべき方向性として「物流 DX や物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化(「簡素で滑らかな物流」の実現) 」[1] が掲げられています。
*総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)より、抜粋
まずは、DXそのものへの理解を深め、物流のDX導入や、IT・デジタル化との違いについて知っていきましょう。
そもそもDXとは
2004年にスウェーデンのエリック・ストルターマン教授が、DX(デジタルトランスフォーメーション)という概念を提唱しました。教授はDXについて「私たちの生活がICT機器の浸透によって、多方向によりよく変化させること」といった内容で定義しました。
日本においては2018年に「DX推進ガイドライン」(経済産業省)が公表されましたが、そこではDXを以下のように定義しています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、 顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、 業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。 引用元: 「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドラインVer1.0」(経済産業省)
さらに「情報通信白書・令和3年版」では、DXについて組織文化のみならず「社会制度」も変革していくような取り組みとして紹介しています。DXは、個々の企業にとどまらず、産業や社会を巻き込む大きな変化を指す概念と言えるでしょう。
物流のDX導入で何が変わる?
国土交通省は「最近の物流政策について」において、物流DXを以下のように定義しています。
物流DXとは…機械化・デジタル化を通じて物流のこれまでのあり方を変革すること 引用元:「最近の物流政策について」(国土交通省)
具体的には、物流DXの推進によって、労働力不足など物流業界が抱えるさまざまな課題にアプローチするとともに、産業としての優位性や国際競争力を高めることを目指します。
物流DXは、物流におけるこれまでのビジネスモデルそのものを革新する取り組みですが、取り組みの柱の1つが「サプライチェーンの最適化」です。サプライチェーンの最適化は以下のような変革をもたらすため、オペレーションの改善や働き方改革の実現につながると考えられています。
【サプライチェーンの最適化がもたらす物流の変化】
・情報やコストの可視化(見える化)
・作業プロセスのシンプル化・定常化
DXは、ITやデジタル化とは異なるの?
ITは「Information Technology」の略称で、単に情報技術を意味します。DXの基盤となる技術ですが、それ以上を意味しません。
また、デジタル化が「Digitization」を指す場合、これまでの紙のやり取りを自動化したり、情報をデジタル形式に置き換えたりすることを意味します。デジタル化は業務を効率的で便利にしますが、DXのような目標やビジョンは提示されていません。
一方、DXは「ビジネスモデル、組織、社会の変革」という目標やビジョンが提示されており、その手段としてITやデジタル化が必要であるという考え方です。
つまり、単にIT・デジタルツールを導入しても、DXの目標やビジョンを理解しない限り、本当の意味でDXを推進・達成することは難しいと言えるでしょう。
物流DXが求められる背景

物流DXの推進は、物流業界が抱えるさまざまな課題に対する、有効なアプローチとして期待されています。それでは物流DXが求められる背景にある「物流業界が抱えるさまざまな課題」とはどのようなものでしょうか。以下、物流業界が抱える主な4つの課題を見ていきましょう。
- 労働力不足の深刻化
- 小口配送の増加
- 働き手の負担増
- 倉庫の空き不足
労働力不足の深刻化
労働経済動向調査(令和4年5月)によれば、物流業界(運輸業)は、特に人手不足感の高い分野の1つとして紹介されています。
また、トラック運送業界の景況感(令和4年4月~6月期)(※1)における「運転者の雇用動向(労働力の不足感)」を見ると、不足・やや不足との回答が計63.6%に達しています。前回よりも7.2%、労働力の不足感が上昇しました。さらに今後、労働力の不足感が上昇する見込みとなっており、物流業界における労働力不足が深刻化していることが分かります。
※1:「トラック運送業界の景況感(令和4年4月~6月期)」全日本トラック協会
小口配送の増加
宅配便の取扱個数はここ35年、ほぼ右肩上がりで増加。令和3年度は49億5,323万個に達し、そのほとんど(48億8,206万個)をトラック運送が担っています(※2)。
※2:「令和3年度宅配便等取扱実績関係資料」国土交通省
特に近年の宅配便の取扱個数増加の背景には、小口配送の増加が指摘されています。
小口配送とは、ネットショッピング利用などによる「個人向けの小口宅配便」のことです。ネットショッピングの台頭で、よりスピーディーで効率的な配送が重視されるようになりました。
なお、令和初頭は宅配便の取扱個数が急増しましたが、コロナ禍の巣ごもり需要などもあり、小口配送のニーズが高まったと考えられます。
働き手の負担増
労働力不足や小口配送の増加は、働き手の負担増につながっています。小口配送の増加は、単に配送件数を増えるのみならず、物流の複雑化や再配達リスクの増加にもつながります。
さらに、小口配送は細やかな管理と配慮を要するため、これも働き手の負担増につながっているのです。
また、物流倉庫においても、近年は求められる役割・サービスも多様化しており、保管・荷役のみならず、包装、流通加工、情報管理なども担います。倉庫業の人手不足も深刻化する現状において、このようなサービスの多様化も、働き手の負担増につながる可能性があります。
倉庫の空き不足
近年は小口配送の増加にコロナ禍が重なる形で、倉庫の空き不足が深刻化しました。2020年の第1四半期には首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率が、過去最低の0.5%(※3)となっています。
※3:「CBREが全国の物流施設市場動向(2020年第1四半期)を発表」CBRE
コロナ禍が過ぎても、宅配便取扱個数の今後の増加に対応するために、庫内作業や管理の効率化、自動化の推進は必須と言えるでしょう。
物流DXで実現できることの事例
労働力不足、小口配送の増加 、働き手の負担増といった深刻な課題を抱える、現在の物流業界。DX化を推進することで、これらの課題にどのようなアプローチができるのでしょうか。ここからは物流業界の課題にアプローチする、物流DXで実現できることの事例を、以下5つご紹介します。
- 機械化・自動化による負担軽減
- 業務効率の改善
- 労働環境の改善
- 手続きの電子化
- ラストワンマイルの効率化
機械化・自動化による負担軽減
物流の機械化・自動化は、深刻化する労働力不足への有効なアプローチとして期待されています。 例えば、配送の機械化、自動化には以下のような事例があります。
- トラックの後続車無人隊列走行(2021年、国土交通省・経済産業省が発表)
- 大型自動車専用船の有人自動運航(2019年、日本郵船株式会社が成功)
- ドローンによる配達サービス(2021年、山梨県小菅村でサービス開始/2020年、長野県伊那市で本格運用)
- 動態管理システム導入による運転日報の自動作成
また、倉庫の機械化・自動化には以下のような事例があります。
- ロボット導入による荷下ろし作業の自動化(坂塲商店)
- 台車型の物流支援ロボット導入による工場内の物の移動の自動化(ライジング)
- 無人搬送フォークリフトによる出荷準備の自動化・効率化(日本通運)
- 全自動運転ロボット導入による、コンテナ・トレーラーからの荷下ろし・積込みの自動化(トヨタL&F)
業務効率の改善
配送における業務効率化の事例には、動態管理システムの導入があります。車両の位置、渋滞状況、到着時間などの情報をリアルタイムに把握することで、業務を見える化。さらにルート最適化によって、効率的な配送が可能となるのです。
また、倉庫における業務効率化としては、AI技術を利用したピッキング作業の効率化・自動化、在庫管理システム導入による複数倉庫の一元管理などの事例があります。
労働環境の改善
動態管理システムの導入は、労働環境の改善に役立てることもできます。 従業員の勤務状況を把握するほか、動態管理システムの勤務データなどを基に、より公正な評価を実施するなど、より良い労働環境づくりの材料とすることができるのです。
もちろん、機械化・自動化による負担軽減も、労働環境の改善に寄与します。労働環境の改善は、2024年に働き方改革関連法案が施行されることもあり、物流業界の急務ということができます。
物流DXの推進は、働き方改革関連法案のスムーズな実現にもつながるのです。
手続きの電子化
手続きの電子化事例としては、伝票、注文書、運送状やその他の関連書類のペーパーレス化が挙げられます。
これまで運送の手続きは、紙ベースで実施されてきましたが、紙ベースでのやりとりには、保管・管理業務も伴い、企業にとっても大きな負担でした。
一方、手続きの電子化が実現すれば、保管・管理業務も不要となります。
実際に物流業界において、紙伝票の電子化を実現すれば、年間3,500億円超(陸路の道路輸送のみ)の経済効果がもたらされるとの試算もあります。
ラストワンマイルの効率化
ラストワンマイルの効率化事例としては、すでにご紹介した「配達におけるドローン活用」が挙げられます。ラストワンマイルとは「最終拠点からお客様までの配達区間」、つまり「配達の最終区間」を意味します。
ラストワンマイルは、ネットショッピング利用による小口配送の増加を受け、再配達の業務負担増も懸念される区間ですが、ドローン活用によって配送効率の向上が期待できます。
現在、ドローンによる配送サービスは国内において、実証実験あるいは局地的な実施の段階ですが、今後は全国規模で展開されるかもしれません。
物流DX化に際しての課題と対策
物流業界が抱える課題への有効なアプローチが期待できるDX。しかし「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」においても、日本のDX化が他の先進国と比較して大きな遅れを取っていることが紹介されています。ここからは、物流DX化を妨げ、遅れを生む要因として以下3つをご紹介します。
- レガシーシステム(既存システム)との折り合い
- IT人材の不足
- 現場の納得や理解
レガシーシステム(既存システム)との折り合い
経済産業省より発表されているDXレポート(※4)によれば、老朽化・肥大化・複雑化・ブラックボックス化したシステムを指す「レガシーシステム」を抱える企業は、8割以上という結果に。中でも商社・流通業界は「半分以上/ほとんどがレガシーシステムである」との回答が計77.7%で、全産業中、最も高い数値となりました。
※4:「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(サマリー)」経済産業省
レガシーシステムの問題点は、扱う人材が限られる「属人化」です。そして、扱える人材が退職するなどすれば、システムの全容がわからなくなり、データの集約や活用も難しくなります。 しかし、属人的なレガシーシステムの継承は難しいケースも多いのです。
仮に、レガシーシステムを放置すれば、老朽化・肥大化・複雑化・ブラックボックス化が進み、DX化をより困難にさせる足かせとなる恐れがあります。
レガシーシステムとどのように折り合いをつけるかは、多くの物流業界が抱える課題といえるでしょう。
システムの最適化や各拠点のルール統一を
レガシーシステム解消のためには、システムの最適化が必要です。具体的には現在のシステムを「見える化」し、 課題に基づいて要件定義した上で、最適化を図ります。なおシステム最適化には以下2つのアプローチがあります。
・ ビッグバン型アプローチ
業務〜システムをトータルで見直し最適化します。 大きなビジネス改善効果が期待できる反面、コストがかかり、対応も長期化する可能性があります。
・パッケージシステムを合わせるアプローチ
業務をパッケージシステムへ、できる限り合わせるアプローチです。スケジュールやコスト面は、ビッグバン型アプローチよりもハードルが低い一方、システムの複雑化や、根本的な課題解決につながらない恐れがあります。
なお、拠点ごとに個別に最適化され、ルールなどは統一されていないことは、DX導入の障壁となります。DX化に際しては、まず、各拠点のルール、パレットのサイズなど、物流のあらゆる構成要素の統一を進める「物流の標準化」が有効です。
IT人材の不足
情報通信に関する現状報告・令和3年版(※5)によれば「日本企業がDXを進める上での課題」として最多の回答を占めたのが「人材不足」でした。
※5:「令和3年「情報通信に関する現状報告」(令和3年版情報通信白書)」総務省
実際、日本のICT人材がICT企業に偏在する現状があり、IT人材の不足が、DX化の大きな足かせとなっている可能性が浮き彫りとなりました。
特に物流DXを推進する上では、ICTのみならず、物流、サプライチェーン、マネジメントの幅広い知見も備えた人材が望ましいでしょう。
技術重視のDX推進には要注意
DX推進においては、物流における俯瞰的な視点と広い知見を備えた高度人材・企業をリサーチ・確保するとともに、自社においても早期からIT・マネジメント人材の育成を検討することが望ましいでしょう。
なお、IT人材が不足する状態でDX推進する際に懸念されるのが「技術重視のDX推進」です。
ピッキングやルートの自動化、ロボットによる運搬など、DXにおいてはさまざまな先進技術の活用事例が目立ちます。しかし、現場に合わない技術や機材を導入すると、うまく設置や動作ができなかったり、余分な作業が発生したりするなど、かえって現場を混乱させる恐れがあります。
技術はあくまでも手段であるため、技術導入を目的とせず、その効果や適合性を適切に評価した上で、実運用を検討することが望ましいでしょう。
現場の納得や理解
日本の物流は、デジタル技術に頼らず、マンパワーで高いサービス水準を生み出してきました。つまり、物流業界は、デジタル技術なしで業務が回ってきた歴史があります。
実際にベテランほど、経験に基づく固有のノウハウを持っており、スムーズに業務を遂行できているケースも少なくありません。
このような中で、「なぜDX化が必要なのか」「なぜ時間をかけて新しいシステムの使い方などを学ばなければならないのか」「オペレーションの変更で業務が妨げられるのではないか」といった疑問が現場から生じ、納得や理解が得られない可能性も考えられます。
現場への研修や経営陣の自己学習を
DX推進について、現場の納得や理解を得るためには、まず経営陣がDXへの理解を深める必要があります。DXへの理解を深めた上で、具体的なビジョンを描き、それを分かりやすく提示できなければ、現場を説得することは困難でしょう。
そこでDX推進においては、ICTをはじめとする経営陣の自己学習が不可欠となります。積極的に勉強会や会合を活用し、IT、DXへの理解を深めてください。
同時に、従業員に対しても学びの場を提供し、ITパスポートなどの資格取得を奨励することも、効果的です。
従業員の立場に立ち「DX化は従業員目線でどのようなメリットがあるのか」を丁寧に説明し、現場を巻き込みつつ、一丸となってDX推進できる風土を作っていくことが望ましいです。
まとめ

物流業界はこれまでマンパワーの高いパフォーマンスで成り立ってきました。
しかし、現場の人手不足、小口配送の増加、2024年問題(働き方改革関連法案の施行)、ウィズコロナへの対応など、課題が山積する中で、もはやマンパワーだけに頼るには限界があります。
物流DXは、物流業界に山積する課題への有効なアプローチ方法であり、新時代の物流のプラットフォームということができるでしょう。
物流標準化を併行しつつ、より良い労働環境、より良いサービス提供を目指し、今から物流DX化を積極的に推進することが望まれます。
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