野々市運輸機工株式会社 代表取締役社長 吉田 章 氏 自らのプログラミングスキルで社内業務のDXを進める野々市運輸機工(石川県金沢市)の吉田社長。 話題の「ChatGPT」もすでに取り入れ、各種マニュアルのたたき台作りや距離計算アプリの開発に役立てている。 今回は、自社で導入する際の「第一歩の踏み出し方」や物流業界に与える影響などについて聞いた。 吉田さんの前回の記事はこちら 本当に役立つ運送業のDX事例② 公的機関をうまく活用しながら進める物流DX野々市運輸機工株式会社 公式ウェブサイト https://nonoichiunyu.com/
やっぱり気になるChatGPTの話
みん物スタッフ:聞き手氏は「ChatGPT」を使ったことありますか?
聞き手:ありますよ。
無料でAIと話せるので、外出先で「〇〇駅周辺でランチにおすすめの店を教えて」なんて聞いています。
今まではネットで「〇〇駅 ランチ おすすめ」などと検索していましたが「ChatGPT」は複数のお店と特徴、人気メニューなどを直接教えてくれるので便利です。

みん物スタッフ:LINEでも公式アカウントの「AIチャットくん」を友だち追加するだけで会話できますよね。
「調べ物して」「文章を作って」なんて便利な機能もありますし。
聞き手:以前取材した「ロジックスライン」の加藤さんが愛用している「Notion」でも使えるんですよ。

みん物スタッフ:いつの間にか、あちこちに入り込んでてびっくりしますよね。
それでも、イタリアでは一時的に利用停止になったりして、賛否両論ありますね。
聞き手:試しに「ChatGPT」自体に「『ChatGPT』が持つ課題を教えて」と聞いてみました。
すると――
- 最新の専門知識や業界の最新動向には対応していない場合があります
- 教育の場では正確な情報や教育的な指導が必要とされるため、利用には慎重さが求められます
- 人間のような自然な返答をすることができますが、一貫性や論理的な組み立てといった面においては改善の余地があります
――などと返してきました。
みん物スタッフ:そつのなさが目立ちます。
とは言え、仕事で使えるのかは未知数ですよね。
ということで、そのあたりに詳しい方が金沢にいるので、取材のアポを入れちゃいました。
取材よろしくお願いいたします。
聞き手:おそらく大学教授やIT企業の関係者ですね。

もっと軽率に「そりゃ富士通が良いですよ」と言ってほしい。
マニュアルや催事の構成案を考えるのに活用できる

聞き手:やっぱり金沢は最高や!

聞き手:金沢おでんのだしを吸った車麩最高!

聞き手:金沢に来たら治部煮を食べなきゃな!
とろみのついた出汁と麩の組み合わせが最高オブ最高!
なんかさっきから、出汁を吸った麩ばかり絶賛してるな…。
とにかく明日は取材だから英気を養おう。

聞き手:(編集部から言われた場所に到着)あれ、ここって…?

吉田さん:どうもこんにちは。「ChatGPTの仕事での使い方を知りたい」というアポをいただきまして。
聞き手:「ChatGPTのビジネス利用に詳しい方」って、吉田さんのことだったんですか!
吉田さん:詳しいかどうかは別として、それなりには使っています。
聞き手:早速ですけど、吉田さんはどのように活用されているのでしょうか?
吉田さん:マニュアルのたたき台の作成だとか、メールやスピーチの文案の作成、それから業務用アプリのソースコード(ソフトウェアやプログラムの設計図になるもの)の作成などです(吉田さんはエンジニア社長としてご活躍されています 参考:前回の記事)。
聞き手:「ChatGPT」とはどのように出合ったのでしょうか?
吉田さん:2022年末にニュースで知りました。
「これは大きな変化が起きる!」と直感的に思いましたね。
そのまま年始のあいさつのたびに「これからは『ChatGPT』の時代です」と口にしましたが、当時は誰も興味を持ってくれませんでした。
聞き手:当時と言っても、たった半年前ですよね。
今では老いも若きも「ChatGPT」です。
それでも未体験の人も多いと思いますが、仕事で活用するにはどうすればいいですか?
吉田さん:まずはGPTを提供している企業「OpenAI」のアカウントを作り、無料で使える「ChatGPT-3.5」※を試しましょう(ChatGPT URL:https://openai.com/blog/chatgpt)。
※編集部注:このバージョンは2021年9月までの情報で作られており、また、ネット上には業界ごとの詳しい情報が少ないため「一般論の範囲で成果物を作る」というシチュエーションで利用しやすいです。 ※編集部注:ちなみに、このURLを開くとこのように…いきなり英語でびっくりしてしまいますが…
焦らずGoogle Chromeの翻訳を走らせれば…
日本語になるので大丈夫です。 あとは、画面の指示通りにアカウントを作りましょう。 アカウントが作れたら、苦手意識を克服したり、慣れたりするために、色々とカジュアルなことを聞いてみると良いと思います。 例えば、わたし(みん物スタッフ)は埼玉出身なので、こんな質問をしてみました。
最初の「そうですよ」に励ましのニュアンスを感じるナイスな回答を頂きました。 川越と秩父と長瀞の話しかしていないのも気になります。 何かを避けてるんでしょうか。
吉田さん:実際に弊社では、新入社員教育や積み込み作業のマニュアルのたたき台を、GPTが作っています。
最初から割と納得のいく内容で提案してくるので、あとは用途に合わせて微調整するだけですね。
例えば、積み込み作業のマニュアルを作る場合は、こんな風にします。

吉田さん:こんな風に目次を作ってくれるので、あとはここに肉付けをしていけばいいわけです。
ここまでできたら、この部分を書いてほしいと、従業員の方におねがいしたりできますよね。
聞き手:確かに何を書くかを決めることができれば、あとは分担して、詳しい方に書いていただくことができますね。
吉田さん:それからスピーチを頼まれたときなどにも使えます。

吉田さん:こんな風に頼むと、こんな感じの原稿が出てきます。
聞き手:これをベースにちょっと手直しすれば使えそうですね。
吉田さん:ChatGPTのすごいところは、ここから色々頼めることです。例えば、少しジョークとか交えたいな、と考えて、それをお願いしてみます。
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聞き手:…なんかジョークは苦手みたいですね。
吉田さん:そう感じたら今度は「ジョークはやめて、コロナで大変だったことをねぎらう内容」を入れてもらいましょう。
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聞き手:ネタ出しとしては、全然使えそうですね。
吉田さん:コツはなるべく具体的な内容を最初にインプットするところですね。
色々と他にも試してみると良いと思います。
聞き手:割と日常的な業務に、そのまま使えそうなことが分かってきました。

吉田さん:あとは新卒向けの会社説明会で構成案を考えるのに使ったこともあります。
「会社側として話すべきことを教えてください。所要時間は90分です」と指示し、続けて「下記は当社の情報です」と、弊社が求人広告で使っていた内容をコピペしました。
すると「会社概要」「事業内容」「企業理念」「ITS(Intelligent Transport Systems/高度道路交通システム)の活用」などと、ポイントを押さえた案を出してくれ、しかも「キャリアパス」や「ビジョン」についても触れるようアドバイスがありました。
さらに全体が90分以内に収まるよう、各項目の所要時間も5分、10分などと教えてくれます。
※編集部注:吉田さんに教えていただいた通りに、株式会社トランストロンを例として作ってみました。 長いのでこちらにリンクを貼っておきます。ぜひ参考にしてください。
聞き手:これだけでも、かなり楽になりますよね。私ならこの作業で2日ぐらいかかるかも……。
吉田さん:とにかく、まずは仕事での困り事をGPTに話してみることですね。
AIがプログラミングコードを書く時代
聞き手:今の話は汎用性があり、誰でもすぐに試せそうです。
一方で物流業界に特化した使い方はいかがですか?
吉田さん:先ほど触れましたけど、ChatGPTにプログラミングコードを書いてもらっています。
聞き手:その発想は吉田さんならではですね。
例えばどのようなプログラミングを書いてもらっているんですか?
吉田さん:例えば、事前の距離検索ですね。
シンプルなんですが、市区町村名を入れると、事務所からの距離が返ってくるウェブアプリケーションを作りました。
最近M&Aを行って新たな会社が仲間として加わったんですが、そこでは各市区町村との距離を、紙の表を使って調べてたんです。
行き慣れた場所ならいいんですが、あまり行かないような場所だと「ええと…」という感じで紙のリストから探したりして、結構手間だったんですね。
聞き手:なるほど。
吉田さん:それをウェブアプリケーションで検索することで、パッと距離が分かるようにしました。
聞き手:単純そうですけど、作るのには知識が要りますよね。
吉田さん:まず、距離表がExcelファイルで存在していたので、それをGoogleスプレッドシート(※)に移しました。
そうすると、手元のPCではなく、Googleのサーバーにスプレッドシートが置かれるんです。
つまり、Google Chromeなどのブラウザからアクセスできるようになります。
※編集部注:Google Chromeなどのウェブブラウザで使えるExcelのような表計算ツールです。
聞き手:はい。
吉田さん:それからGoogle apps scriptという無償のサービスを使います。
そうすると、Googleスプレッドシートのデータを読み取るWebアプリケーションが作れるようになるんですね。
聞き手:なるほど。
吉田さん:その後、「住所と距離が入ったGoogleスプレッドシートがあります。Goolge apps script上にJava script(プログラミング言語)のコードを置いて、入力した住所をGoogleスプレッドシートから検索して、距離を返すウェブアプリケーションを作りたいです。Java scriptのプログラミングコードを書いてくれませんか?」とChatGPTに頼むわけです。

冗談みたいなスピードでJava Scriptのコードを書いてくれました。
聞き手:それはなんか、外部の業者さんに頼むような感覚ですね。
吉田さん:そうです。
そうするとすぐにChatGPTがコードを書いてくれます。
それを実際にGoogle apps scriptに乗せて、プログラミングを走らせてチェックします。
そうすると、字が小さいとか、入力場所が思った場所と違うとか、そういうことが起きます。
聞き手:はい。
吉田さん:そしたら、字をフォントサイズXXptにしてほしいとか、入力場所を真ん中にしてほしいとか、お願いします。
で、また出てきたものをチェックする。
また修正をお願いする…というようなやり取りを1時間程度繰り返して完成しました。
しかも、ウェブアプリケーションなので、スマホでも使えます。
コツは、たたき台として、とりあえず雑でもいいから頼んでみることと、修正を具体的にお願いしてくことだと思います。
聞き手:たった1時間!
吉田さん:おそらく、ChatGPTに一番向いているのは、コードを書いてもらう作業ですね。
そもそも、コンピュータなので、AIにとってはコードが一番理解しやすいですし、人間と違って、「やっぱりこうしてほしいんだよなあ」という要望を何回出しても嫌がりません。
相手が人間だと、こちらも気が引けちゃいますよね。
そうすると、「なんか違うんだよなあ」と思っても妥協しがちです。
その点、ChatGPTは気兼ねなくダメ出しできます。
従業員にもChatGPTを活用してほしい

聞き手:従業員の皆さんも「ChatGPT」を活用しているのでしょうか?
吉田さん:GPTを広めようと、まずは社員間のコミュニケーションツールとして利用しているChatworkに連携させました。
しかし、誰が何を調べようとしたのかオープンになってしまうのがネックになりました。
当たり前ですよね。
そこで、独自の「nonocomChat(ノノコムチャット)」というアプリを作りました。
聞き手:確かに、仕事上での初歩的なことを質問したとみんなに知られたら恥ずかしいです。
あと「ChatGPT」をそのまま使えと言われても、ちょっと抵抗ありますよね。
吉田さん:で、まあ、これも当然のようにChatGPTに作ってもらったんですが、みんなが親しめるよう「LINEのようなアプリを作って」などと指示しました。
本当に「LINEみたいに」って入力したんですよ(笑)。
そうすると、最初から機能面もデザイン性も十分なものを作ってくれて、約1日半で完成しましたね。
ちなみにこちらは月額20ドルの「GPT-4」を備え、ネットから最新情報を拾ってくれます。
ただし、3時間のうちに25回ほど質問したら停止したり、1度に覚えられる会話のボリュームが制限されていたりします。
聞き手:社内の反応はいかがですか?
吉田さん:まだ始まったばかりなので、研修などを通じて浸透させる必要がありますね。
私としては、あらゆる業務でGPTや「nonocom.chat」を使ってほしいです。
例えば、受信したメールをコピペして「返信を考えてください」は便利でしょう。
文章を書くのが苦手な人や新入社員の苦労も軽減できますよね。
近未来では互いにGPTでやり取りしているかもしれません(笑)。
独自のAI活用にも取り組む
聞き手:吉田さんのアイデアの具現化を「ChatGPT」が加速させていますね。
吉田さん:加えて私たちの間では、他業界に驚かれるほどいまだに電話とFAXが主流です。
弊社では「FAXで届いた注文書などをPDF化し、各ドライバーのスマホに飛ばす」という段階にまでは到達しましたが、書かれている内容を配車システムに入力するのはまだ人間の仕事です。
聞き手:この部分のさらなる効率化を考えているのですね。
吉田さん:FAXに書かれている顧客名、荷物の種類や量、配送先などのデータを取り出し、自動で配車システムに読み込ませる仕組みを考案中です。
なかなか面倒なので、これまでは着手してきませんでしたが、先ほど申し上げた通り、GPTがそれなりに動くコードを書いてくれるようになりました。
なので、そろそろ着手しても大丈夫だろうと。
さらに精度を上げるには機械学習が必要で、現在はGPTとは別のAIにFAXの画像データを大量に読み込ませ「これは荷主名」「これは荷物名」「これは住所」などと覚えさせています。
「ファインチューニング」と呼ばれる微調整ですね。
聞き手:つまり「野々市運輸機工に合うように調整したAI」ということですね。
吉田さん:FAXがやや異なる形式で届いても、自社AIは大量に学習しているので「どこの会社からどんな発注があったのか」と理解し、配車システムに取り込めるようになります。
さらに配送先の住所データをGoogleマップに飛ばせば、最適なルートを検索して自動配車も可能になるでしょう。
ここではGoogleの「Vision API」を利用しています。
画像データの読み込みは1,000枚程度まで無料で、超えたとしても月額1.5ドルでさらに1,000枚を追加できると思います。
FAXが1日に50枚届いたとしても問題ありませんよね。
聞き手:安く活用できるのに、あまり知られていないのですね。
吉田さん:マニュアルが分かりにくい上に英語であることが理由ですが、GPTの登場により、翻訳をおねがいしながら作業できるようになりました。
もう英語のドキュメントも気にする時代ではないですね。
今後はAIを自社に最適化させていく作業が必須になるでしょう。
各従業員が持つ「自分だけの知見」を集約させ「会社のことなら何でも知っているAI」に育てるのです。
例えばGPTは「トラックの積み込み作業を教えて」には答えられますが、「A社の積み込みについて、野々市運輸機工のやり方を教えて」には正しく反応できないはずです。
だからAIを自社用にカスタマイズすれば、ベテランドライバーが引退しても、敏腕営業マンが転職しても、その知識や経験が残るのです。
具体的には「この鋼材はどう積めばいいですか?」「レバーブロックで荷締めをします」のようなQ&Aを山ほど作っていきます。
「吉田さんは優秀です」「めちゃめちゃいい人です」とも学習させたいですね(笑)。
聞き手:Q&Aやマニュアルをはじめ、各従業員の知識や経験を蓄積してきた会社はこれから飛躍しそうですね。
吉田さん:それこそ「自社にしかできない領域」ですよね。
一部の業務をプロに任せるだけで、すぐにAIを活用できるでしょう。
だから世界中の情報を握っているGoogleなどの企業がリードできるわけです。
スキル差が埋まっていく中、大切なのは「やっぱり吉田さんやし、頼むわ」と思われること

聞き手:物流業界も「ChatGPT」で変化しそうですね。
吉田さん:どう考えても便利なんで、止まらないでしょうね。
そうすると、じゃあ人間は何をするの?という話になると思うんですが……私は飲みニケーションに力を入れることにしました。
聞き手:ChatGPTを取り入れて結果的にそこに行くんですか!
吉田さん:これからはGPTによって個人のスキル差が埋まっていきます。
今日ご紹介している通り、プログラミングコードを書くことのハードルがぐっと下がりました。
読んで意味がなんとなく分かる程度まで勉強すれば、AIが結構な部分を書いてくれます。
エラーが出たり分からないところがあっても、AIに聞けば教えてくれるわけです。
そうすると、私自身の優位性がなくなるのではないかなと思っています。
なので今後は、AIにはできない「人付き合い」が非常に重要なのではないかと。
聞き手:一周回って昭和的なビジネススタイルが戻るかもしれないということですか。
吉田さん:両輪ですよね。
片方では新しいテクノロジーを駆使してゴリゴリと業務を改善し、もう一方では金沢の片町界隈を開拓して「このお店ならあのお客さんが喜びそう」「カラオケもうまくならないと」という(笑)。
GPTの登場で私のような経営者も、新入社員も、他の運送会社の人も的確に同じことを言うようになったら「やっぱり吉田さんやし、頼むわ」という部分が“差”になります。
そのために、昭和のような交流が今後は大事になるのではないかと。
聞き手:スキルの差がなくなると私のように記事を書く仕事も危ういですね。
もしかすると、今回の記事は「ChatGPT」が作っているかもしれません……。

※こちらも参考にどうぞ: 「本当に役立つ運送業のDX事例② 公的機関をうまく活用しながら進める物流DX」 https://logisticsdx.com/logistics_dx/1134/
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