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2010年代半ばより、自動車業界では「CASE(ケース)」と呼ばれる技術革新が進んでいます。CASEは、車のみならず、 私たちの価値観や社会、産業構造を変えるほどのインパクトを持っていることをご存知ですか。

今回は、すべての社会人・ビジネスマンが理解しておくべき「CASE」について、 その意味や具体的な事例、未来に与える影響を解説。さらに経済産業省の推進内容や、実装化に向けた課題についてもご紹介します。

自動車業界のCASE(ケース)の意味

運転している手

CASEは、自動車業界の今後の動きを象徴するキーワードです。自動車メーカー・ ダイムラー社が、2016年に発表した中長期戦略の中で用いました。CASEは、以下4つの言葉の頭文字を取った言葉で、各ワードが、これからの自動車業界の変革の方向性を示しています。

Connected(コネクテッド)車のIoT化と、取得データの活用
Autonomous(自動運転)車を運転する主体を人から車へ、徐々にシフト
Shared(シェアリング)車の所有から、共有(シェアリング)へ
Electric(電気自動車)車の動力源を化石燃料から、CO2排出のない電気へ

CASEが示す4つのテーマを実現するために、自動車各社は様々な動きを見せています。

具体的には「自動車を作って売るという従来の自動車メーカー」から「移動に関わる様々なサービス(モビリティーサービス)を提供する供給者(プロバイダー)へ」という、大きな動きが見られます。

このような動きに伴って、競合相手やビジネスルールなども、大きく変わってゆくことでしょう。

なお、経済産業省も2019年より「CASE技術戦略プラットフォーム」の開催、国土交通省と連携した自動運転に関する実証プログラムなどを通じて、CASEの推進・実現に取り組んでいます。

Connected(コネクテッド)

Connected(コネクテッド)では、車に通信機器やセンサーを搭載することによるIoT化(モノのインターネット化)とともに、取得したデータを様々な用途に活用します。

これによって、交通や駐車場の空き状況の取得、事故発生時の自動通報、盗難時の自動追跡が可能となります。また、ソニーグループが自動車ビジネスへの参入検討を発表しており、実現すれば、車内のコンテンツの拡充も期待されます。

このほかの国内企業の事例・動向は以下の通りです。

自動車業界の取り組みトヨタのT-Connect
日産のNissanConnect
その他業界の取り組みソフトバンクによる通信プラットフォームの構築
GMOクラウドの「つながるクルマ」化

トヨタ自動車は現在、国内発売のほぼ全車種で車載通信機を搭載。コネクテッドサービス「T‐Connect」を本格運用しています。

日産自動車はスマートフォンとの連携も可能なコネクテッドサービス 「NissanConnect」をマイクロソフト社との提携で展開しました。 さらに、ソフトバンクは2018年に世界初となる「5G通信活用の開発向け検証環境」を構築したほか、GMOクラウドは、既存車両のコネクテッド技術の搭載に向け、車種を問わない「つながるクルマ」化を推進しています。

Autonomous(自動運転)

Autonomous(自動運転)では、自動運転の技術革新によって、車の運転主体を「人から車」へ、徐々にシフトすることを目指します。

車の運転主体が人から車へシフトするレベルには、以下の6区分が存在します。

【自動運転レベルの区分】
自動運転レベル0:自動運転システムが搭載されていない(運転自動化なし)
自動運転レベル1:アクセルブレーキまたはハンドル、いずれかの操作を部分的に実施する
自動運転レベル2:   アクセルブレーキまたはハンドル、両方の操作を部分的に実施する
自動運転レベル3: ドライバーが常に運転に戻れる状態かつ、定められた条件下で自動で運転操作する
自動運転レベル4: 定められた条件下で自動で運転操作する
自動運転レベル5:  全てを自動で運転操作する(完全運転自動化)

現在、実用化されている自動運転レベルは「レベル3」です。自動運転レベルを高め、実用化するためには技術的な課題をクリアすることはもちろん「事故の際の責任の所在」など、法律的な課題をクリアにすることが求められます。

そんな自動運転における、国内企業の事例・動向は以下の通りです。

自動車業界の取り組みホンダ:2021年、レベル3搭載自動車発売
トヨタ:2020年、レベル2搭載自動車発売
その他業界の取り組みティアフォー:自動運転OS開発
ZMP:自動運転・配送ロボット開発

ホンダは、2021年3月に、レベル3の自動運転技術を搭載した「新型LEGEND」を発売しました。レベル3搭載車については、ドイツのアウディが2017年に「Audi A8」を発売しましたが、システムの認可がおりていないため、ホンダの「新型LEGEND」が「世界初のレベル3搭載車」と言えるでしょう。

自動車業界以外の取り組みでは、名古屋大学発の株式会社ティアフォーが、オープンソースの自動運転 OS「Autoware」の開発を続け、2022年には損保ジャパンらとともに「レベル4自動運転サービス向け・自動運転システム提供者専用保険」を国内で初めて開発。ZMPは、車両・バス・ロボットなどへの自動運転技術活用に取り組み、2020年には「自動ロボットによる医療機関までの送迎サービス」をスタートしました。

Shared(シェアリング)

Shared(シェアリング)では、車の所有から共有(シェアリング)へとシフトする価値観に合わせたサービスを提供します。

そんなシェアリングにおける、国内企業の事例・動向は以下の通りです。

自動車業界の取り組みトヨタのTOYOTA SHARE
その他業界の取り組みタイムズのタイムズカー
ソフトバンクのライドシェア投資

トヨタの「TOYOTA SHARE」は、アプリで車を予約して、15分単位から利用可能なカーシェアサービスです。また、時間貸し駐車場のパイオニアであるタイムズも、同様のカーシェアリングサービス「タイムズカー」を展開しています。

さらにソフトバンクグループは、米Uber、中国Didiをはじめとする各国のライドシェア企業への投資を積極的に実施しています。

Electric(電気自動車)

Electric(電気自動車)では、化石燃料を動力とする車から、電気自動車へのシフトを目指します。

化石燃料を動力とする車は、地球温暖化の原因となるCO2を排出しますが、電気自動車はCO2を排出しないため、環境問題解決の大きな一手となることが期待されているのです。

そんな電気自動車における、国内企業の事例・動向は以下の通りです。

自動車業界の取り組み三菱自動車のi-MiEV
日産自動車のリーフ
その他業界の取り組みパナソニック EV用バッテリー開発

三菱自動車は2009年に電気自動車「i-MiEV」を発売。また、2010年に発売された日産自動車の「リーフ」は、世界で初めての量産型EV車となりました。

さらにパナソニックは、アメリカの電気自動車企業・テスラへEV用バッテリーを製造し、存在感を高めました。 そんなパナソニックは2023年春より、電気自動車充電器のシェアリングサービスをスタートすると発表しています。

CASEの具体的な事例

左手を上げた女性

自動車会社やその関連企業の中には、CASEを主軸に添えて、新たなビジョンを提示しているケースも少なくありません。ここでは国内企業2社から、CASEの事例を見ていきましょう。

トヨタ自動車

トヨタ自動車は、CASEを前面に押し出して自社を変革する、国内自動車会社の代表格です。

2018年、豊田章男社長は決算説明会の中で「自動車を作る会社から、モビリティカンパニーへのモデルチェンジ」を発表。つまり、いち自動車メーカーから、移動に関わる様々なサービスを提供する企業へ変革するという、大胆なフルモデルチェンジを打ち出しました。

実際にトヨタ自動車はその直後からコネクテッドサービス「T‐Connect」を開始するほか、自動車事故の軽減に寄与する先進運転システム(ADAS)の車両実装、サブスクリプションサービス「KINTO ONE」・カーシェアリングサービス「TOYOTA SHARE」のスタート、自動運転レベル2の自動車発売(2020)など、意欲的な取り組みを見せています。

株式会社デンソー

株式会社デンソーは、トヨタ自動車グループの自動車部品メーカーです。

トヨタ自動車の自社変革に伴って、株式会社デンソーもCASE戦略に基づいた変革を推進しています。

具体的には自動運転・コネクテッドカーの各分野に専門部署を新設。加えて、12,000人もの自社ソフトウェア開発人材を、2025年までに確保することを発表し、国内外の拠点を活用することで、絶え間ない大規模ソフトウェアの開発が可能な体制を構築しています。

CASEが未来に与える影響

メガロポリスを望む3人

CASEの推進は、私たちの生活・社会を大きく変えることになります。具体的に、CASEの実現は以下のような影響を未来に与えると考えられます。

【CASEが未来に与える影響】

  • CO2を減らすことができる
  • 交通事故を減らすことができる
  • 交通弱者へのアプローチになる
  • MaaS

CO2の削減

現在、海面上昇などを引き起こすとして、地球温暖化が世界的な問題として認識されています。

そして、地球温暖化の原因とされる「CO2を含む温室効果ガス」の削減が、多くの国で義務化されるようになってきました。

日本でも2022年に、 温室効果ガスの排出量実質ゼロにする「改正地球温暖化対策推進法」が施行されたばかりです。

CASEを推進し、カーシェアリングや化石燃料を使用しない電気自動車を普及することは、CO2削減に大幅に寄与すると期待されています。

交通事故の低減

日本国内における交通事故発生件数・負傷者数はここ15年で減少傾向を示していますが、依然としてゼロにはなっていません。

そして、交通事故の原因の97%がヒューマンエラー(運転者の違反)に起因すると「自動車の安全確保に係る制度及び自動運転技術等の動向について」(国土交通省)では紹介されています。

CASEを推進し、自動運転が実現すると「安全確認不足、信号無視、アクセル・ブレーキの踏み間違い、危険運転」などのヒューマンエラーを減らし、交通事故そのものを削減する有効な防止策となることが期待されます。

交通弱者の救済

少子高齢化が進む現在の日本では、いわゆる交通弱者が増加しています。

高齢に伴い免許を自主返納する人も増える一方、人口減少・過疎化が進む地域では公共交通機関の維持が難しく、移動手段が制約される人が増えているのです。

CASEを推進し、自動運転が実現すると、自動運転バス等の運行が可能となり、交通弱者の救済手段となることが期待されます。

MaaSの実現

MaaSとは「Mobility as a Service=モビリティとしてのサービス」の略語です。

CASEが自動車が目指すべきビジョンを提示しているのに対して、MaaSはタクシー・バス・鉄道・自転車などあらゆる移動手段を想定し、快適な移動に関わるさまざまなサービスの提供を目指します。

現在は、CASEが先陣を切る形で、自動車や移動の概念を拡張し、それに伴ってMaaSの概念やサービスが少しずつ、社会や市場に浸透していくようなイメージです。

MaaSを実現するために、CASEの推進は絶対不可欠なものと言えるでしょう。

CASEは経済産業省も推進している!

よく見かける女性

国内外の企業がCASEの実現に取り組む現在、経済産業省もその推進を支援しています。

2017年に経済産業省は、今後の産業が目指すべきあり方として「コネクテッドインダストリーズ(Connected Industries)」を提唱。取り組むべき重要5分野の1つに「自動走行・モビリティサービス」が掲げられました。

そして、2019年より「CASE技術戦略プラットフォーム」を開催し、2020年に議論のまとめを発表。業界と関係省庁が協調し合いながら、今後とも電動化技術・CO2削減などに取り組み、その強化を目指すことで一致しました。

さらに2022年の「経済産業省におけるデジタル実装の取組について」では、官民一体の研究開発・実証実験・社会実装までのワンストップの取り組みにより「自動運転レベル4の実現・普及」を目指すことが示されています。

CASE実装化の課題

腕組みしている顔が見切れたスーツの男性

各業界・関係省庁が、CASEの実装に向けた積極的な取り組みを続けています。しかしその取り組みには、以下のような超えるべき課題が存在します。

【CASE実装化の課題】

  • 人々の価値観が適応できるか
  • 自動運転レベルの実現にはまだ遠い

人々の価値観が適応できるか

CASEの推進は、人々に新しい価値観やサービスを提示することにつながります。

しかし提示される価値観は、従来とは異なる新しい価値観・サービスであるため、その適用に時間がかかる可能性が考えられます。

例えば、自動運転バスを実装し、運用をスタートする際は、利用者やエリアの住民の理解を得ることが必須です。

また、カーシェアリング・サブスクリプションサービスも始まっていますが、車に対してはシェアリングよりも「所有する」という価値観が、まだ一般的と言えるでしょう。

CASEに対して人々の価値観が適用しないと、利用者が少なく、収益の出るビジネスとして成立しない恐れも出てきます。 結果としてCASEの実現・普及が遅れることが懸念されます。

自動運転レベルの実現にはまだ遠い

現在、自動運転レベル3を搭載した市販車も発売され、自動運転レベル4の開発・実証実験もスタートしています。

自動運転技術は着実な進歩を見せるものの、自動運転レベル5(完全な自動運転)の実現までには、もう少し時間がかかることでしょう。

自動運転レベル5(完全な自動運転)の実現には、技術精度を高めることはもちろん、人々の価値観の適用・交通インフラや法律の整備なども不可欠です。

まとめ

Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared(シェアリング)、Electrification(電気自動車)の頭文字をとった「CASE」は、今後の自動車業界の進むべき方向(ビジョン)を示しています。

自動車の意味が大きく変わるだけでなく「移動」そのものに、大きな変革とビジネスチャンスが生まれている状況と言えるでしょう。

その影響は、自動車業界を超えた様々な業界、さらには国レベルにまで波及しています。

この記事をきっかけに、CASEを巡る今後の動向に注目してはいかがでしょうか。


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