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保険サービスシステムHD株式会社 特命部長
社会保険労務士・中小企業診断士
高橋 聡(たかはし さとし) 氏
三井住友海上経営サポートセンターを経て現職。
2,000社を超える運送会社の就業規則・給与規程策定に携わる。
トラック協会、ジャパントラックショー等講演多数。
物流ニッポン・物流Weekly紙にて、ホンネの労務管理を書いた連載が好評を博している。

デジタコを使ったドライバーの給与計算

前回は「2024年問題」への対策として「ドライバーの勤務実態を把握すること」「とはいえ、あまりにも計算が複雑なので機械の力を借りること」と学びましたね。

※前回の記事:運送業の2024年問題について社会保険労務士に聞いてみた(3/4)
ドライバーの給与計算は複雑怪奇。計算は機械に任せてしまおう。
保険サービスシステム3/4アイキャッチ

今回は、まずはそんな機械の一つ「デジタコ」について話します。

―「デジタコ」。食べ物っぽい響き(※)ですよね。ITっぽくないというか。

※ところで「ベジタコ」というのがありました。
https://www.nisshin-seifun-welna.com/index/recipe/detail/n-319.html

デジタコを略さずに言うと、「デジタルタコグラフ」です。いずれも国土交通省の認証を受けて製品化されていて、走行に関する「速度」「距離」「時間」を記録できます。

前回もお話した通り「ドライバーの“本当の”労働時間」「改善基準告示と労働基準法」「深夜および休日の労働時間数」といった要素を網羅して給与計算するのは人間業ではありません。運送事業者のみで解決するのは不可能に等しく、こうした機械を利用することをお勧めしています。

デジタルタコグラフ(デジタコ)
ついに「いらすとや」にも進出した”デジタコ”

デジタルだから、やっぱりアナログの「アナタコ」もあるのでしょうね。さらに食べ物っぽいですよね。アナゴとタコの丼を思い浮かべてしまいました。「タコ」の強さから逃れられない。

”アナタコ”もあります。すごいぞ「いらすとや」。

国交省は最大積載量4t超のトラックに対し、デジタコまたはアナタコの搭載を義務付けています。中でもデジタコが推奨されていますが、運輸局の監査で全ての運行記録がオープンになるのを避けようと、あえてアナタコを採用し続ける運送事業者がいるのも事実です。

しかし、アナタコでは「2024年問題」を乗り越えるために必須の「分単位の休憩時間」を把握できません。つまり、ドライバーの労働時間数を立証できないことから、未払い残業代の請求トラブルに巻き込まれやすくなってしまいます。なお、2023年4月より月60時間超の時間外労働割増率が125%から150%に引き上げられるため、休憩時間数の把握は重要です。

そもそもドライバー不足の中、デジタコを使って「彼らが安全に、かつモチベーション高く働ける給与制度」を確立させていくほうが大切ですよね。

勤怠管理に適した機種は限定的。4t未満の車両管理を含めシステムも活用を。

優れもので名前もかわいいデジタコですが、欠点はあるのでしょうか?

デジタコは国交省の認証という背景もあり、拘束時間や連続運転時間、休憩時間といった事故防止のためのデータは取得できます。つまり、従来の改善基準告示の範疇ですね。しかし「2024年問題」の焦点である労働基準法の範疇、つまり時間外労働まで把握し、深夜や休日の労働時間を見分けられ、変形労働時間制、日またぎ・月またぎ、振替休日・代休にも対応できる機種は限られています

現時点で運送会社に必要なのは、帰社後の洗車や次の荷物の積み込み、社内会議をはじめ、運行に直接関わらない時間も含めてドライバーの労働実態が分かるデジタコです。

富士通デジタコDTS-G1D
労働基準法にも対応している富士通のデジタコ

2t車や3t車にはデジタコとアナタコの設置義務がありませんよね。こちらはどのように管理するのでしょうか?

スマホなどを利用した低コストの勤怠管理システムが役立つでしょう。

あ、スマホ…

(何かを察した)あ、あるいは、廉価版のデジタコもあるので、同一メーカーの安い価格帯のデジタコを組み合わせると、同じソフトで一括してデータを管理できるので、結果的にそちらの方が効率的かもしれません

労働基準法にも対応している富士通のデジタコの廉価版

ちなみに「これ一つで労働時間の問題は解決!」などとうたうシステムは無数にありますが、法律や業界の慣行を正しく踏まえた製品はほとんどありません。デジタコでもシステムでも、さまざまな手段を用いて工数、コスト両面において「全体最適」となる仕組みが重要ですね。

また、あまりにも高額なシステムを導入した運送事業者に出合うこともあります。しかも実際に必要なデータを取得できていなかったりして、厳しい状況にある彼らがひどい目に遭うのは本当に許せません。

日本の経済を支える方たちに対してそういうものを提供するというのは、本当にそうですよね。

2024年問題をきっかけに「適正な出来高歩合給」の導入を検討すべき

―デジタコなどでドライバーの勤務実態をしっかりと把握し、フェアで正しい給与計算をするというのは納得できました。でも現実的には「2024年問題」によって特に長距離ドライバーの時間外労働が規制されるため「この仕事は稼げない」というイメージを与えてしまうことも“モンダイ”でしたよね。

そもそも労働基準法の下では、働く時間が長くなるほど給与が増えます。しかし、仕事が遅い人のほうが手当をもらえることになり、運送業界では長年の課題でした。

私は異なる業界にいますが、若手の頃には残業代によって自分が守られていると感じた一方、経験を積んでからは努力しない人にも手当が支払われることにジレンマを覚えました。やっぱりドライバーさんに限らず、給与制度は色んな問題をはらんでいますね。

なので、これを機に「運行形態に即した給与制度・適正な出来高歩合給」の導入をお勧めします。「荷物の形状」「立ち寄り件数」「手積みか、パレット積みか」といった労働時間以外の項目でドライバーを評価し、給与の公平な分配を図るのです。そうすればただ単に「2024年問題」に対応するよりももっと深い部分で、各自の頑張りを給与の維持・アップに反映できますよね。

「荷主とのコミュニケーションに長けている」「横ぶれの少ない走行技術を持ち、精密機器も運搬できる」「仕分け作業にも対応可能」など、特定の仕事を任せられるドライバーはさらに評価するべきです。「汗をかいた人が高いお金をもらえる仕組み」を、ぜひ考えてほしいですね。

給与制度変更の代償措置としては、「定年の延長」も検討してはいかがでしょうか。そもそも60歳を超えて月額30万円以上を得られる仕事は希少であり、今の高齢化社会にフィットすると思います。過密にならないシフトを組み、個人の事情に配慮することで、シニア層が貴重な戦力になりますよね。

「公平な給与制度で優秀なドライバーの給与維持・アップを図り、人材の流出防止と新規採用を目指す」のですね。一方で減らしたいのは、能力の評価につながらず「2024年問題」に伴って割増率が引き上げられる残業代でしょうか。

完全時給制を採用する運送事業者もいますが、私が知る限り、総じて従業員の労働時間が延びています。時給制がマッチするのは、例えば自動車の部品など配送ルートが固定されていて、ドライバーが運行時間を調整できない場合に限られます。

加えて、ひとたび完全時給制を導入すると、変更時に大変な苦労をする可能性もあるのでご注意ください。

ダラダラと働いても手当が付くという、時給制の“魔の手”から逃れられないのですね。

求職中のドライバーを惹きつける、定額時間外手当を使った給与制度改革

ある運送会社の給与改革を紹介します。

  • 基本給/15万円⇒14~16万円
  • 支給意義が低く固定給化している諸手当/4万円⇒2万円
  • 時間外手当(出来高歩合給として)/10~15万円⇒定額6万円+超過手当1~2万円
  • 出来高歩合給の追加(時間外手当から区分)/5~10万円
  • トータルの月給/29~34万円⇒29~35万円

改革時に着目した主なポイントは以下の通りです。

1)数年前の基準で計算されていた基本給

2)支給意義が低く固定給化している諸手当
	最低賃金割れを防ぐため、有給休暇を取得したにもかかわらず支給される皆勤手当
	同様の理由から、事故を起こしたのに支払われてしまう無事故手当
	「大型トラックに乗っているから」という理由だけでもらえる大型手当
	無意味に高額な家族手当……など

3)時間外手当として支給されていた出来高歩合給

中でも3)は、未払い残業代の問題が生じた際に裁判で否認される可能性があります。また「時間外手当を上回る額を払えば納得してもらえる」と考える経営者もいますが、そもそも実際の残業時間が反映されていない点が問題であり、まさに「未払い残業代の請求を生んでしまう給与制度」なのです。

加えて、基本給と諸手当で最低賃金をクリアする必要があることから、連動する時間外手当の単価も高くなってしまいますよね。

「給与を支給する意味」を考え直す必要があるのですね。

改革後の給与制度では、出来高歩合給と時間外手当が区分されました。定額の時間外手当は求人広告で固定給として表記できるため、求職者の目を引きますよね。当然ながら最も重視してほしいのは「ドライバーの月給は現状通り、もしくは少し昇給させること」です。

給与制度の改革について、具体的な進め方を教えてください。

コンプライアンス的に問題のない給与制度となるよう、まずは数カ月かけてシミュレートします。ドライバーが納得しないと給与改革は進まないので、改善点や休暇時の給与保障に関する資料を用意する他、給与明細、雇用契約書、就業規則・給与規程なども見直します

もちろんデジタコなどを用い、給与計算を自動化して、担当者の負担を増やさないことも欠かせませんね。

あくまでも「2024年問題」は改革の契機

―インタビューは今回で最後ですが、改めて「2024年問題」に対する思いはいかがでしょうか?

「2024年問題」では法規制への対応が話題になりますが、ピンポイントで一喜一憂するのではなく、「2030年」等さらに先を見据えた「給与制度の改革」として考えるほうが重要です。

メディアでは「物流クライシス」といった表現を目にしますが、私自身は膨大な数のドライバーが離職して物流を崩壊させるとは全く思っていません。実際、すでに倉庫職や運行管理職では月60時間を超える時間外労働の規制が始まりましたが、過度の離職、崩壊、書類送検といった言葉は耳にしていません。

とにかくシンプルに「荷主に運賃交渉し、高速料・修繕費・燃料費使用を適正化し、ドライバーを公平に評価する」という“やるべきことをやる”に尽きますね。

ありがとうございました。

【編集部から】
適切な労働管理→改善基準告示、適切な給与計算→労働基準法
全く異なる法体系のもとで、しかもほぼリアルタイムに把握する必要があるには
高橋さんが仰る通り、何かしらのシステムが入らないと難しいと、ご納得いただけたと思います。

世の中で普及しているデジタコであれば、ある程度までは対応できるとは思いますが、
改善基準告示、労働基準法、両方同時に、かつ各社の事情に合わせてある程度フレキシブルな
設定が可能な富士通のデジタコも、ぜひご検討ください。

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