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保険サービスシステムHD株式会社 特命部長
社会保険労務士・中小企業診断士
高橋 聡(たかはし さとし) 氏
三井住友海上経営サポートセンターを経て現職。
2,000社を超える運送会社の就業規則・給与規程策定に携わる。
トラック協会、ジャパントラックショー等講演多数。
物流ニッポン・物流Weekly紙にて、ホンネの労務管理を書いた連載が好評を博している。

運送業界は変形労働時間制を採用するべきではない

前回は(※)「2024年問題」に向けた対策として「荷主との運賃交渉」および「ドライバーの労務管理」について教わりました。今回はどのようなテーマでしょうか?

※前回の記事:運送業の2024年問題について社会保険労務士に聞いてみた!(2/4)
「2024年問題」をモンダイにしないよう、荷主との運賃交渉&ドライバーの労務管理を(ToDoリスト付き!)
アイキャッチ高橋さん二記事目

「ドライバーの給与計算」についてですね。そのために必要なのが時間外労働時間や深夜時間・休日時間等の正確な把握です。運送会社の義務なので、デジタコや管理システムで正しく把握するなどのひと通りの対策は、前回の記事でお伝えしました。

運送業界には「休憩時間 vs 待機・手待時間」の構造があるとも伺いました。荷物を受け取る時間の指定がないためドライバーの待機時間が長くなったり、その待機時間が実質的には休憩時間になっていたりと、ややこしい事情がよくわかりました。

給与計算のために不可欠な労働時間と時間外労働時間の計算方法について、改めて確認しておきましょう。以下の式で求められます。

労働時間=拘束時間-休憩時間
残業時間=労働時間-法定労働時間

拘束時間が重要なのは「改善基準告示」の遵守のためで、労働時間の把握は「労働基準法」の世界です。給与計算は労働時間で行います。そこで前回、休憩時間を荷主と協力して労働時間を正確に測るようにしましょうとお伝えしました。

時間外労働時間の計算の基本になる法定労働時間は、基本は1日8時間ですが、月ごとや年ごとに労働時間を調整できる変形労働時間制も「一応」あります。繁忙期などで勤務時間が増えても柔軟に対応でき、時間外労働として扱う部分を減らすことも「一応」できます。

―「一応」というのが気になりますが、なんだか経営者にとっては便利そうですね。

例えば石油を運ぶタンクローリーを所有する会社では、おそらく冬場が繁忙期で、夏場は閑散期になると思います。冬は休日を減らして、逆に夏は増やして、1年を通した平均で「週40時間まで」を守ろうとするのです。

もちろん、それでも働ける時間は決まっていて、1年単位の変形労働時間制の場合「1日10時間以内」「週52時間まで」です。つまり通常に比べて、繁忙期に1日2時間法定労働時間を伸ばせて、休日も1日減らせることになります。

1年単位の変形労働時間制の例

その分、閑散期には8時間より少なく、週40時間より少ない法定労働時間にして、バランスをとる必要が出てきます。

また「月の前半が忙しく、後半は余裕がある」など、1カ月単位の変形労働時間制を採用する運送業者もあります。

「働く時は働く。休む時は休む」と、ワークライフバランスが取れそうですね。

いえ。私としては「運送業界は、この1年および1カ月単位の変形労働時間制を採用するべきではない」という考えです。

ど、どうしてでしょう?いいところだらけのようにも思えますが。

1カ月単位の変形労働時間制においては、前月末までに翌月の各日・週ごとの労働時間を定めておかなければなりません。ところが多くの運送事業者では「そもそも残業が慢性化しているので、月の前後半を問わず休みが取れない」「事前に休日を定めたにもかかわらず、頻繁に事後変更がある」というのが実態です。つまり、荷主のニーズに対して、フレキシブルに対応できなくなるわけです。これは運送事業者の実態からはかけ離れています。

ですので、通常の運送事業者の場合、変形労働時間制を採用する余地はほぼなく、もし、今変形労働時間制を採用している運送事業者がいるとすれば、単に誤った用い方をしている可能性があります。また、運用の条件も厳しく、裁判では条件をクリアしたと認定されずに、変形労働時間制が認められないことも多いので、最初から採用しないほうがいいでしょう。「2024年問題」を機に、労働時間制度もあるべき姿に直していくべきです。

ははっ。かしこまりました!

ドライバーの給与計算はあまりにも複雑で落とし穴だらけ。

時間外労働時間は「労働時間―法定労働時間」で計算できますが、以下のようなミスがあるので、どうぞご注意ください。

まず原則的な労働時間制の場合「今週、このドライバーが何時間働いたのか」を把握しきれていない運送事業者が多く、そのため、「40時間を超えたかどうか」がわからないまま、仕事を割り当てているケースも意外とあります。また、「1日8時間、週40時間」を超えているかどうかにかかわらず、土日などの休日にドライバーを稼働させると時間外割増が必要になるのに、きちんと計算できていない運送事業者も多いです。

また、変形労働時間制では、法定労働時間の考え方が煩雑になるため、各自の時間外労働時間を把握するための難易度が上がり、正しく把握できていないケースが見られます。

なんだか、常に正しく労働時間を把握するのって、普通に無理そうですよね。

そうなんですよ。そのためにあるのがデジタコや運輸系の管理システムです。

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この機器の役割については改めて次回でも触れます。しかし、どんなデジタコやシステムでもうるう年などの関係もあり、1年単位の変形労働時間制には対応していません。さらに運送業界に限らず、一般業種の勤怠管理システムでさえもここが課題になっています。やはり、そういう意味でも正しく運用できる一部の会社を除き、変形労働時間制は避けた方がいいと思うんですよね。

始業時間が基準となる改善基準告示、毎日午前0時が基準となる労働基準法、その違いで起きる混乱

(※ライター注:ここから話が非常にややこしくなります。とにかくこんなに労務管理はややこしいんだ、ということだけご理解いただいて、ぜひ最後までお読みください)

ところで、改善基準告示を覚えていますか?

―カイゼンコクジ……いや、コクジキジュン……あ、初回の話に登場した、ドライバーの拘束時間を定めたルールですよね。業界独自の概念のような。

ドライバーの拘束時間に関して、改善基準告示では「始業から24時間以内」の拘束時間数、休息時間数、連続運転時間数で判断していきます。8時間の休息もしくは計10時間になる分割休息があれば、各時間数はリセットされ翌日として切り替わります。

一方で労働基準法は「午前0時から次の午前0時まで」で計算しています。この両者の違いに留意する必要があるのです。

(無言)

労働基準法は毎日0時から計算を始めますが、ドライバーの中には0時をまたいで運行する人も多いことはご存じですよね。いずれも始業する日の運行として計算するので、たとえ0時をまたいでも月曜の始業なら月曜運行、火曜の始業なら火曜運行になります。なお、土曜日の運行が日曜日にまたいだ場合、日曜日を法定休日に設定していたとしたら、割増率は135%になるのです。

あーそーゆーことですね。完全に理解しました。←わかってない

あーそーゆーことね完全に理解したわかってない→
わかってない

改善基準告示では8時間の休息を取れば翌日として扱われますが、労働基準法では初日の労働がずっと続いていることになりますね。

また、月またぎでは「週40時間まで」のルールを破りがちです。

例えば31日まである月の29日が日曜の場合、カレンダーは30日(月)、31日(火)、翌月1日(水)、2日(木)、3日(金)、4日(土)となりますね。しかし、月が変わった1日から4日で週の法定労働時間を計算してしまうミスもよく耳にします。

日またぎでは「改善基準告示基準と労働基準法基準の違い」、月またぎでは「法定労働時間は週40時間まで」にどうぞお気を付けください。

ドライバーの労務管理はもはや人間の手に負える代物ではない(断言)

トラック輸送イメージ

私は完全に理解できましたが、ドライバーに給与を支払うための労働時間を計算するのに、こんなに苦労するのですね。

ほかにも「有給休暇」「振替休日」「代休」や、(コロナ禍で発生した)「休業」などが絡んできます。また、22時から5時までの「深夜労働時間」、週1回の法定休日に勤務させた場合の「休日労働時間」も考慮する必要がありますね。それぞれ割増率が異なるので、正しく計算しなければなりません。

もはや人間の手に負える領域ではありませんよね。だから、機械の力を借りる必要があるのです。労務管理に対応しているデジタコを使うことしか、正直対応策はないと思います。

ありがとうございました。「2024年問題」に向けてドライバーの正確な勤務実態を把握しなければならない、でも、あまりにも計算が複雑なので機械の力を借りなければ追いつかない、ということですね。次回は「デジタコの役割」について話を伺います。

【編集部から】
適切な労働管理→改善基準告示、適切な給与計算→労働基準法
全く異なる法体系のもとで、しかもほぼリアルタイムに把握する必要があるには
高橋さんが仰る通り、何かしらのシステムが入らないと難しいと、ご納得いただけたと思います。

世の中で普及しているデジタコであれば、ある程度までは対応できるとは思いますが、
改善基準告示、労働基準法、両方同時に、かつ各社の事情に合わせてある程度フレキシブルな
設定が可能な富士通のデジタコも、ぜひご検討ください。

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保険サービスシステム高橋さんアイキャッチ



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