目次
- 運送事業者の利益確保を目指したルールづくりも、コロナ禍で“絵に描いた餅”に
- 状況を打破するために、勇気を振り絞って荷主と運賃交渉をしてみては
- 交渉時には厚生労働省のリーフレットなど、現状を伝える資料が役立つでしょう
- 運送事業者が社内で取り組めることもあります。まずは働いた時間と休んだ時間の把握を
- (おまけ)本記事で挙げられている荷主との運賃交渉ToDoリスト
保険サービスシステムHD株式会社 特命部長
社会保険労務士・中小企業診断士
高橋 聡(たかはし さとし) 氏
三井住友海上経営サポートセンターを経て現職。
2,000社を超える運送会社の就業規則・給与規定策定に携わる。
トラック協会、ジャパントラックショー等講演多数。
物流ニッポン・物流Weekly紙にて、ホンネの労務管理を書いた連載が好評を博している。
運送事業者の利益確保を目指したルールづくりも、コロナ禍で“絵に描いた餅”に
――前回(※)は物流業界が直面している「2024年問題」について、わかりやすく概要を聞かせいただきました。ドライバー業のホワイト化はウェルカムだと思いますが、残業の規制に伴う人手不足の助長や人件費の増大など、本当に多くの課題がありますね。
※前回の記事:運送業の2024年問題について社会保険労務士に聞いてみた!(1/4) 「2024年問題」って何が“モンダイ”なのですか……?
コロナ禍初期には飲食や建設の仕事がストップし、ドライバーに人材が流れ、ドライバー不足が解消された時期もありました。しかし、ワクチンが普及して行動制限も落ち着きを見せ、再びこれらの業界に戻っていってしまい、運送業では再び人手が足りなくなっています。
――黙々と運転に集中できるドライバーの仕事は私の性格にもマッチしそうですが、コロナがひと段落した後ドライバーに定着しなかったということは、結局みなさん仕事に満足できなかったのでしょうか?
一番大きいのは、ドライバーへのお給料の問題で、さらに根本にあるのは業界の低利益体質です。
これはコロナ前からずっと問題として認識されていて、実は2019年に、国土交通省が運送業における適正な運賃・料金の設定を目指して「標準貨物自動車運送約款(やっかん)等の改正」を行っています。
これまで規定があいまいだった運賃に関して「配送料」「作業料」「待機料」などの項目を明らかにし、料金の計算方法についてもガイドラインを示して運送事業者の利益確保を目指しました。荷物の「仕分け」「棚入れ」「ラベル貼り」といった仕事についても料金を請求できるという内容です。
ところが、コロナ禍で運送事業者間の競争が激化し、各社が運賃を上げられず“名ばかり”になってしまいました。そして前回も話した通り、現在は燃料費の高騰が追い打ちをかけている状況です。
状況を打破するために、勇気を振り絞って荷主と運賃交渉をしてみては
――新型コロナウイルスは各業界に影響を及ぼしていますが、それにしても歯がゆいですね。
とはいえ対応策はゼロではありません。運送事業者は、まず荷主に運賃交渉を行ってみることをお勧めします。
燃料費の上昇は荷主も周知の事実で、間違いなく交渉材料になります。実際に私たちのお客さまでも「運賃を5~15%ほどアップできた」という方々がいて、どちらかといえばBtoBの産業材を扱う荷主に対して成功しています。
――どのような運送事業者が運賃アップを実現しているのでしょうか?
元請けに近い立場の会社が成功していますね。一方で大半の会社は下請けや孫請けであり、話し合いさえ行われないのが実態です。現在のところは限られた会社層の話ですね。
それでも物流に関わる各社は、運送事業者を取り巻く状況を理解しているはずです。しかも半導体や部品の不足により、新たな車両の入手も困難になってきました。新車の納品が1年半も先になることも当たり前なので、この点も荷主に伝えてみましょう。
さらに、コロナの影響で事業活動を縮小した事業主に対して雇用調整助成金の特例がありましたが、いずれ打ち切られる見込みです。また、政府系の金融機関を中心に長期かつ低金利の制度融資もありますが、今後は多くの運送事業者が償還期間を迎えるとされています。こうした現状も伝えることで、荷主との運賃交渉に役立ててほしいです。
交渉時には厚生労働省のリーフレットなど、現状を伝える資料が役立つでしょう
――実際の交渉はどのように進めていけば良いのでしょうか? 私は口下手で、しかもかなり弱気でして……。
「2024年問題」を理解していない荷主も多いので、厚生労働省のリーフレット「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」や、インターネット上の記事などを活用すると良いでしょう。

運賃のおよそ5割を占めるのはドライバーの人件費であり、2024年4月以降は時間外労働の規制強化でコストアップすることが確実なので、こちらも交渉材料になると思います。

また、前回お話しした「改善基準告示」も規制が強化されます(改善基準告示分科会)。2024年4月には「拘束時間」規制も強化されていくのですが、こうしたことも荷主に伝えた方がいいでしょう。
やはり、国がどれだけ頑張って運賃を引き上げようとしても、強制するのは困難です。その中で運送事業者が何をすべきかが今後のポイントになってきますね。
――もう少し具体的に、どんな風に荷主に伝えられますか?
例えばドライバーの拘束時間や労働時間を集計して明確に伝えることは効果的だと思います。ドライバーの休憩時間は細切れなので、デジタコやシステムで正しく記録し、荷主に実態を報告するのです。おそらく、現段階で始められる最善の「2024年問題」対策でしょうね。
運送事業者と話す限り、大手運送業業者荷主は現状を理解しているため交渉しやすいようですが、引き上げは小幅にとどまることが多いです。一方、2024年にかかる中長期の契約を交わすことで、単価を上げた運送事業者もいます。
運送事業者が社内で取り組めることもあります。まずは働いた時間と休んだ時間の把握を
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――「2024年問題」への対策として、荷主との運賃交渉が必要なことは理解できました。運送事業者の社内で取り組めることはありますか?
まずは運行シフトの再編成です。人件費アップになるのでハードルは高いのですが…単純にドライバーの人数を少しでも増やせば1人当たりの労働時間を減らせますよね。また、例えば毎月20日になったら各自の勤務時間をチェックし、月末までに時間外労働が80時間を超えそうな場合は働き方を変えてもらうのです。何しろ違反した場合は罰則が厳しくなりますので。
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特に月間の走行距離が7,000kmを超えるドライバーは「2024年問題」の影響を受けやすいので注意が必要ですね。
――それは前回も教えていただきましたよね。長距離ドライバーは途中で交代要員を確保するなど、対策が必要とのことでした。
それから、これは荷主との相談になりますが、荷物の受取時刻を指定してもらうことも推奨します。なぜなら時間が未定だと、早めに到着したドライバーに待機時間が生じるからです。待機時間は労働時間に含まれますが、受取時刻を指定してもらい、その時間まで「休憩」するよう指揮・命令することで、「休憩時間」として扱えるようになる可能性があります。
また、運送業界では長い間「休憩時間 vs 待機・手待時間」という課題がありました。ドライバーは「荷主から待機の指示があった」と言いますが、実態としては仮眠を取ったり、スマートフォンをいじったり、休憩時間に相当すると考えられます。だから荷主の協力を得て、先方の配送センター内に休憩エリアなどを設け、待機時間と区別するのも有効ですね。
――時間がわからなくても待ち続けるなんて、付き合い始めた恋人同士みたいですね。
はあ…。あとは「乗車前の点検」「帰社後の洗車や積み込み」「会議などによる休日出勤」も労働時間になります。デジタコを使えば運転時間や休憩時間は管理できますが、その他をどう捉えていくのか、考えておきたいですね。とはいえ、あまりにも複雑なので、デジタコやシステムの会社による新たな仕組みづくりに期待しています。
ちなみに、休憩時間について確認しておくと「労働から解放された、自由に利用できる時間」です。例えば、コンビニやサービスエリアでの停車時間などですね。先ほども話した通り、荷主先到着後の指定時刻までの時間も相当すると考えられます。
そのためには管理者が可能な限り日報に目を通し、休憩時間と待機時間の区分をドライバーに確認して、日々の労働時間を確定させる取り組みが不可欠です。さらに、休憩時間は1分単位で記録しなければならず「1日60分」のようなみなし計算は厳密にいうと誤りなのでお気を付けください。
――ありがとうございました。次回は「ドライバーの給与計算」についてインタビューさせていただきますね。
(おまけ)本記事で挙げられている荷主との運賃交渉ToDoリスト
№ | やること |
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① | 2024年問題について解説されている資料や記事を集める ・厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」 ・運送業の2024年問題について社会保険労務士に聞いてみた!(1/4)「2024年問題」って何が“モンダイ”なのですか……? |
② | ドライバーの拘束時間や労働時間を集計する 【広告】富士通デジタコの労務管理OPなら、簡単に時間外労働時間を集計できます。 詳しくはこちら。 |
③ | 荷主に運賃交渉をしてみる ・①で集めた資料を元に2024年問題について説明する ・コロナの雇用調整助成金の終了を伝える【参考】 ・運送業の人件費の構造について伝える【参考】 ・ドライバーの拘束時間や労働時間を集計したものを使って説明する ・軽油価格の資料【参考】 ・運転職の有効求人倍率【参考】 ※21職業別労働市場関係指標(実数)(平成23年改定)(平成24年3月~)のexcelファイルの「第21表ー7 有効求人倍率(パート含む常用)」シートを選び、「自動車運転の職業」をご確認ください。 【広告】富士通デジタコを使って拘束時間や労働時間を集計し、荷主と運賃交渉をした事例があります。詳しくはこちら。 |
④ | 荷主と協力して、ドライバーの労働時間と休憩時間を丁寧に分けてみる 【広告】富士通デジタコを使って労働時間と休憩時間を集計することもお勧めです。 |
⑤ | 高橋聡さんの労務コンサルサービス個別相談会(無料)に申し込む※経営者の方限定 |
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