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デジタルネイティブの運送事業者経営 事業継承後の試行錯誤を振り返る

中野社長アイキャッチ

目次

一般貨物自動車運送事業
中野運送株式会社
代表取締役社長
中野 雅仁 氏

中野運送株式会社について
愛知県一宮市に本社を置く、創業50年を超える一般貨物自動車運送事業者。
一宮市を中心に、富士(静岡県)鈴鹿(三重)に営業所、埼玉に事務所を持つ。
自動車部品運送を中心に、ヘルスケアや介護・福祉、飲料関連など、
私たちの生活に欠かせないさまざまな分野を流通面から下支えしている。

家業を継ぐことを見越し、人材採用ベンチャーに就職

聞き手:本日はDX(デジタル・トランスフォーメーション)と人材マネジメントについて、お話をお伺いしますが、その前に、まずは中野社長のご経歴や、バッググラウンドについてお話しいただけますか?

中野さん:私は愛知県一宮市出身で、高校までを地元愛知で過ごし、大学は神奈川県の学校に進学しました。専攻は経営学でしたね。

聞き手:ご実家が運送業を営んでいたと。

中野さん:そうですね。でも、元々、家業を継ぐつもりはありませんでした。学生でしたから、たとえば、広告とかIT関連とか、どちらかというと華やかな業界に興味があって、就活もそうした業界を中心に。でも、企業のリクルーターの方々の話を聞くうちに、家業を継げば、自分のかじ取り次第で業界を変えていくことができるんじゃないか?中野運送を他の運送会社とは違う会社に成長させることだってできると思いました。

聞き手:なるほど。そこで方向転換されたのですね。

中野さん:そうですね。家業を継ぐ前提で就職をしました。どんな業界であっても、企業として「ヒト・モノ・カネ」は重要ですが、運送業は「労働集約型」のビジネスモデルですので、やはり一番重要なのは「ヒト」なんです。ですから「人材」に関する学びを深めたいという思いもあり、人材採用をお手伝いするような都内のベンチャー企業でお世話になりました。

聞き手:なるほど。

中野さん:入社の際にあらかじめいずれ家業を継ぐことを伝えて「3年間、しっかりがんばりますので勉強させてください」と。

聞き手:3年間と時間まで区切って。

中野さん:そうです(笑)。法人営業だったんですが、意識的にドライバー業界や物流業界のクライアントを中心に担当し、いろいろな話を聞くことができたことも大きな経験となりました。
「人材採用」のメカニズムを、会社側と求職者側の両方から観察できたのもよかったですね。

聞き手:会社と求職者、どちらの気持ちも理解できると。

中野さん:会社がアピールすることと、求職者が求めていることが違うケースがあります。求職者=働く人の気持ちをきちんと考えないとうまく支援できません。もっと言うと、求人では色々ときれいな言葉で飾り立てることもできるんですが、いざマッチングするとなると、やはり企業の素の部分が出てきてしまう。素の部分を磨かないと、求職者には見抜かれてしまいますね。

聞き手:どれくらいの期間、お勤めだったのですか?

中野さん:3年満たないくらいです。実は、中野運送で色々と大変なことがあって、当初の予定よりも早く帰ってきました。

聞き手:大変なことですか。

中野さん:どれくらい大変だったかというと、戻ってきた翌日にはトラックドライバーとして現場に入らされました(笑)。それまで都会暮らしで乗用車もほとんど乗ってなかったので、駐車場を出て5分でエンスト(苦笑)。一つずつ手探りで、なんとか覚えていった感じです。

聞き手:跡取りって、責任がある分苦労しますね…。

入社数=応募数×入社決定率

聞き手:戻ってから、まず着手したことはなんですか?

中野さん:やはり、まずは「人材確保」ですね。

聞き手:ああ…やっぱり運送事業は人材不足と聞きますし…。

中野さん:先ほど、運送事業は「労働集約」だと申し上げましたが、働いてくださる人がいないと、成長ができないわけです。そういう意味では、人材確保がまずは優先されますよね。それから、これは誤解されるとまずいんですが、私も今、手探りです。人材会社で働いた経験を元に、こうしたらどうか、ああしたらどうか、という試行錯誤を今も続けている最中です。

聞き手:なるほど…。

中野さん:そうした試行錯誤の一つとして、まず、すべての求人媒体を紙からWebへとシフトしました。

聞き手:それはどうしてですか?

中野さん:単純に紙だと応募が来なかったからです。

聞き手:それはなかなか…。Webにシフトして変わりましたか?

中野さん:応募数は目論見通り増えました。発見だったのは、意外と上の年代の方もWebで応募していただけるんですよね。逆に紙でないとリーチできない求職者というのは、あまりいないんじゃないかという感触です。

聞き手:紙は全部やめてしまったんですね。周りからの反発はなかったですか?

中野さん:ありましたが、どっちみち応募がないのだからノーリスクだろうということで、納得していただきました。

聞き手:応募が増えたのだから良かったですよね。

中野さん:ただ、応募が増え、面接に進む人の数も増えたのですが、残念なことに思ったほど入社数は増えませんでした。

聞き手:それはまたどうして。

中野さん:結局、入社数は、面接数×入社決定率の掛け算です。面接数は増えましたが、決定率がなかなか上がらなかった。そこで、待遇面も含め「素のままの自社の魅力」が大切なんだなという、会社員時代の経験がよみがえってきたわけです。

聞き手:「素のままの自社の魅力」とはどういうものなんでしょう…?

中野さん:結局、給与などの待遇だったり、働きやすさだったり。会社や自分の仕事に愛着を持ってもらえるかとか。一般的に皆さん持ってらっしゃる運送業に対するイメージがありますよね。

聞き手:残業が多いとか、不規則だとか…。

中野さん:地道にそういったところをどうやって解決するか、だと思っています。

データを使えば荷主が動きやすくする

中野さん:私もまだ正解が分からない中で取り組んでいるんですが、いま顕在化している運送業の問題一つ一つは、全部つながっていると思うんです。

聞き手:はい。

中野さん:会社の素の魅力を高めるということは、お給料を十分なものにしなければならない。ワークライフバランスを整えなければならない。業界のイメージも変えていかなければならない。

聞き手:そうですね。

中野さん:それには会社の仕組みも効率化して、収益力を上げて、お給料の原資を作らなければならないし、ワークライフバランスのことで言うと、クライアント(荷主)の方たちとも協力して、全体の仕事のフローを見直さなければならない。そうしたことがぐるっと回って、業界全体のイメージの改善につながってくる。

聞き手:ぐうの音も出ないほど仰る通りです。

中野さん:で、そのカギはどうしてもDXだと考えざるを得ない。DXという言い方はもう陳腐化してるかもしれませんが。

聞き手:どういった活用をされているんですか。

中野さん:今言った全体の仕事のフローの話で言うと、例えば、荷待ち時間の問題などがあります。この問題をきちんと解決するには、会社=運送事業者だけでなく、クライアント側にもご理解・ご協力していただかないといけない

聞き手:荷待ち時間が長時間労働の原因になっているとか。荷主の理解が得られないということはよく聞きます。

【参考】「荷待ち時間対応「荷主の理解どこまで」長い荷待ち対価意識は」、物流ウィークリーhttps://weekly-net.co.jp/topics/28237/

中野さん:クライアント側に問題があるとかどちらか一方に責任があるように語られがちですが、個人的な意見を言わせていただくと、そもそも話の仕方に問題があるんじゃないかと。

聞き手:と言いますと?

中野さん:クライアント企業のご担当者の皆さんも大きな組織の中で責任をもって仕事をしていらっしゃいます。そういう方にただ「つらいんです」と言ったところで、「じゃあどうすればいいのか」となりますし、ふわっとした話だと、クライアント企業の中でエスカレーションもできません。皆さん大企業で働かれていますから、資料を作って上司の方に説明する必要があるでしょう。

聞き手:漠然と「大変です」と言われても、確かに困りますね。

中野さん:なので、データを使うことにしました。今使っているデジタコで運行データが取れているんですが、可視化されたデータを見せながら「このような運行状態になっておりまして…」と説明すれば、どこがどんな風に大変なのかが明確にわかる。

聞き手:それで、この部分を改善するにはどうしたらいいのか?と具体的な対策へとつながっていくんですね。

中野さん:これは運賃交渉のお願いや、便数を増やしていただくお願いにも使えます。特に便数の話などで言うと、例えば今のままだとドライバーの休憩を取ることができないということをデータを示してお話しします。そうすると先方もコンプライアンスを重視されている大企業なので、「これは問題だ」と納得して、便数を増やしてもう少し余裕のある計画にしよう、となります。データがあれば動けるんです。

聞き手:なるほど。

中野さん:このほかにも、バックオフィスの効率化に取り組んでいます。実は当社、以前は手書きの日報を採用していたんです。ドライバーが提出した日報を人力で入力・給与計算していましたが、デジタコのデータを使うことで、今ではその必要がなくなりました。ここは単純に、省力されたことで、営業費用の改善につながります。 それから休憩休息の時間チェックがドライバーの自己申告だったのが、デジタコを取り入れたことにより透明化できるようになったのも大きいですね。

従業員のキャリアをライフタイム全体で考える意味

中野さん:ただ、やはり、それでも不充分じゃないかなと感じてまして。

聞き手:これだけ考えておられるのに。

中野さん:愛知県一宮地区の求人マーケットで、競合との人材獲得競争に勝たないといけないという視点で考えると、「素のままの自社の魅力」に加え、他社との差別化という要素も必要なんじゃないかと。

聞き手:差別化ですか。

中野さん:この新社屋、事業再構築補助金を活用して立て替えたんですが、実は「倉庫」を新設したんです。

聞き手:「倉庫」が差別化になる…?

中野さん:そうなんです。これまでも一時預かり拠点として倉庫があったのですが、それだけじゃなく、今後は「倉庫業」にも注力していこうと準備を進めています。

聞き手:業務の拡大ということですか?

中野さん:拡大というよりも、社員の仕事を生み出すためです。ドライバーの仕事って何だかんだいっても体力仕事なので、60代後半に差し掛かるとやっぱり厳しいですよね。だからといってトラックに乗れない=退職というのは違う。トラックを降りた後、その先の仕事を作るのも会社の役目だと思うのです。

聞き手:長期雇用の機会を提供することで、長きに渡り会社で活躍してくれる人材を確保するということですね。

中野さん:トラックドライバー引退を考えている人にとっては、新しい選択肢になってくれると思います。それから、新卒入社の人材もすぐにはトラックに乗れません。トラック免許を取得するまでの期間の仕事が用意できれば、新卒採用にも注力していくことができます。
そして倉庫は、これからキャリアをスタートさせる若い人たちと、キャリアのエンディングを迎える層の接点にもなります。経験豊富なベテランの方々のサポートにより、これから運送業界で働きはじめる若い人がスムーズに仕事に慣れていけるなど、お互いにとってのメリットも多いはずです。

聞き手:従業員のライフタイム全体を考えた事業ドメインの再定義というわけですね。

中野さん:運送事業はドライバーさんがあちこちを渡り歩いて…というのが多いんですが、新卒の育成からキャリアの終盤まで、安心して働ける環境があるというのは、運送事業の求人市場でも大きな差別化ポイントになるんじゃないかな…と考えて取り組んでいます。

「DX」とは、もはや「当たり前」であり「欠かすことができない」もの

聞き手:家業を継いで5年ほど。あらためて振り返ってみて、いかがですか?

中野さん:そうですね、もうちょっとやれたことはあるかな?とも思いますが、こうしていきたい!という理想に近づくために、一個ずつ壁を壊しながらやってきたというのが本音ですね。まだまだ至らない点も多く、一つひとつ経験を積んでいくことで、自分自身も成長していきたいと考えています。まだまだ伸び代は沢山あるはずなので(笑)。

聞き手:なるほど。こうやって、中野社長の取り組みをお伺いしていると、デジタルはあくまでも一部分のお話だと実感しました。

中野さん:とはいえ、デジタルなくしては「素のままの魅力」が磨かれないのは確かですし、もはやなくすことは考えられません。デジタルは「当たり前のように必要なもの」だと思います。

聞き手:経営者の方へ、何かアドバイスはありますか?

中野さん:こんな若輩がアドバイスなんて言うと、何目線だよ、という話になってしまいますが…私自身としては「デジタル化を進めない」選択肢はないと思っています。やはり、日々の業務にデジタルソリューションを導入し、業務の透明化・システム化を進めていかなければ、デジタル化を進めている企業との地力に差がついてしまうと思います。
当社においても、もちろん導入時の大変さはありましたが、今ではもう導入前の状態には戻れません。戻ることを考えるだけでゾッとするほどです(笑)。 「やらない」メリットはないし、今後デメリットはどんどん増えていくでしょう。導入コストや社内にマッチするかどうかなどはありますが、そのハードルを一つずつ超えて行く価値があると思います。

※こちらも参考にどうぞ:
「今すぐできる!本当に役立つ運送業のDX事例① お金を掛けない物流DXでコミュニケーション改革!」
https://logisticsdx.com/logistics_dx/1065/


「本当に役立つ運送業のDX事例② 公的機関をうまく活用しながら進める物流DX」
https://logisticsdx.com/logistics_dx/1134/

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