
目次
- 正しいデータ活用を理解するための本
- データ活用を志向する経営者向け
- そもそも「エンゲージメント・サーベイ」とは何なのか?
- 考え方自体は組織論以外にも応用できる
- ところで、なぜ「エンゲージメント・サーベイ」が今取りざたされているのか?
- どうしてデータ活用が難しいのか?
- 【付記】これは多分解釈の齟齬が起きるだろうな…
出版社による本書の説明 ◆チームや組織を変えたい「現場マネジャー」「人事担当者」必読! ◇「データと対話」で職場を変える、これからの組織開発の教科書! ◆鍵は「サーベイによる見える化」と「対話によるフィードバック」にあった! ◇本書を読めば、チームの雰囲気も成果も劇的に変わる! 近年、働き方改革の中で注目を浴びている「HRテック」「エンゲージメント調査」といった 最新技術の数々。 しかし、実際の現場ではこんな悩みを抱えていませんか? ・ただでさえ忙しいのに、アンケートばかりやらされてうんざり! ・データを見ても内容が難しくてわからない。これ、どう使えばいいんだ? ・最新のHRテックを導入したけど、現場に活かされていない……。 そんな「コケてしまっているデータ活用」に翻弄されずに、 職場のデータを活かして今いるチームや組織を変える技術、 その名も「サーベイ・フィードバック」の手法を本書では解説する。 「サーベイ・フィードバック」とは、 (1)サーベイ(組織調査)によってチームや組織の状態を「見える化」し、 (2)データが示す結果について対話を通じてフィードバックする技術のこと。 ポイントは、データの扱い方はもちろんのこと、 「どのようにデータを現場にフィードバックするか」を解説している点にある。 図版とイラストを多用し、わかりやすい語り口なので、専門知識がなくてもスラスラ読める! さらに「現場マネジャー向けのポイント」をまとめた項目や、 「サーベイ・フィードバックの企業事例」も掲載。 「勘と経験によるマネジメント」から抜け出し、 「データを活かして組織を変える方法」がここにある!
正しいデータ活用を理解するための本
基本的には組織の改善について書かれていますが、内容としては正しいデータ活用を行うための参考書です。
組織の作り方を実例に上げながら、正しいデータのとり方、正しいデータの活かし方を説明しています。
本書を通じて、組織論に留まらず、「データを経営に活かすとはどういうことなのか」を理解できると思います。
データ活用を志向する経営者向け

本書はいわゆる人事管理ITツールの一種である「エンゲージメント・サーベイ・ツール」について書いた本ですが、エンゲージメント・サーベイ・ツールの導入を検討していなくても、経営者であれば読んで損はない本です。
例として組織論を挙げているので、どのような業態でも共通したテーマですし、話も具体的なので、抽象的なデータ活用の本よりは、むしろ理解しやすいと言えます。
つまり、データを活用したい(≒DXを志向する)経営者向けとしては、良い本だと言えます。
そもそも「エンゲージメント・サーベイ」とは何なのか?

「エンゲージメント・サーベイ」とは、考え方として以下のようなものです。
・エンゲージメントというのはざっくり「従業員がどのくらい働き甲斐を感じているか」です
※以下、しゃらくさいのでエンゲージメントを「働き甲斐」と表記します。
・従業員が働き甲斐を感じられていると生産性が高いと言われています
・働き甲斐は定量的に測定が可能だと言われています
・なのでまずは自社の従業員の働き甲斐を測定するところから始めます
・測定された働き甲斐のデータを元に組織内でよく話し合い、どうやって働き甲斐を高めるのか行動計画を作ります
・行動計画を実行に移します
・また働き甲斐を測定し、話し合い、行動計画を作り、実行に移す、の繰り返しです
・そうしていくうちに従業員の働き甲斐が高まり、生産性が上がる、という理屈です
ちなみに富士通グループでは従業員エンゲージメントのスコアを経営指標として位置付けています。
最近の弊グループはしゃらくさいので、対外的にも「エンゲージメント」なんて言ってますね。
参考:https://www.fujitsu.com/jp/about/csr/indicator/
考え方自体は組織論以外にも応用できる

この考え方は、結局、測定されたデータを元に、どのように現場を変えていくか、という取り組みすべてに通じる話です。
本書で指摘しているのは、
・働き甲斐が生産性と結びついているのは確実
・働き甲斐を測定するソフトウェアがたくさん売られているのでデータも簡単に取れる
・ところがデータを取った後どうすればいいかの議論が、ほとんどの会社でぽっかりと抜けている
ということです。
これはおそらく、「エンゲージメント・サーベイ」に限らず、データ活用を目指している企業の多くで当てはまる傾向だと思います。
例えば、デジタコを付けて、従業員の労働時間や車両の稼働時間が細かくわかるようになったのに、「皆さん、改善基準告示を守るように気を付けてくださいね」で終わってしまう、ということを示唆しています。
ところで、なぜ「エンゲージメント・サーベイ」が今取りざたされているのか?

本書の本題に戻ります。
働き甲斐が生産性に結びつく。
この指摘自体には「そらそうやろ」という感想しか出てきません。
本書によると、問題は「働き甲斐を感じるポイントが多様化している」ということのようです。
つまりお客さんに喜んでもらうことが働き甲斐になる人もいれば、自分の成長が働き甲斐になる人、評価されることが働き甲斐、様々だということです。
そして、この価値観は近年バラつきを見せている、というのが本書の主張です。
働き甲斐を感じるポイントが多様化した場合、経営者が従来の価値観で判断していると、突然従業員が思ってもみないような理由で退職する、などということが起こりうるということです。
どうしてデータ活用が難しいのか?

データに意味づけをしないと解釈ができず、行動が変わらないと本書では指摘しています。
例えば、医師に「中性脂肪200mg/dLを超えてますよ」と言われても「そうなんですね」で終わってしまうということです。「中性脂肪200mg/dL」が何を示しているかわからないからです。
医療の話でたとえられていることからもわかる通り、繰り返しになりますが、組織論に留まりません。データを扱う以上、必ず付きまとう問題です。
本書では、このあと、具体的にどのようにデータを取るべきか、取ったデータをどのように解釈すべきか、データを元に組織が変わるにはどのようにすべきか、といった点を具体的に解説しています。
今後データの活用を考えている経営者、そもそも離職率の高い運送業界で組織作りに悩んでいる経営者の方は、時間のある時に読んでみるといいでしょう。
【付記】これは多分解釈の齟齬が起きるだろうな…

本書では従業員の働き甲斐が高い企業の取組として「職場の人間関係やコミュニケーションの円滑化」が取り上げられています。
こういうところにもデータの解釈の難しさが表れていると思います。
これを従来の価値観で解釈すると「よっしゃ、バーベキューで従業員同士の絆を深めたろ!」となりがちです。
ところが、おそらくそれは間違った解釈だと思います。
ポイントは「円滑化」の部分です。
絆の話はしていません。
円滑にコミュニケーションが済めばそれでいいわけです。
逆に、バーベキューを実施した結果、肉の焼き方でAさんとBさんが揉めたり、年下のCさんが空いた皿を下げない、ビールを注がない、といった問題が発生するかもしれません。
円滑なコミュニケーションと絆の深さは似ているようで無関係です。
そうではなくて、従業員にデータを見せて、「どういう点でコミュニケーションがスムーズにいかないのか」ということを掘り下げるべきです。
「言った言わない」の問題かもしれません。
その場合は、野々市運輸機工のこの例のように、「電話禁止、連絡は文字ベース」といった、バーベキューとは真逆の対策になるわけです。
参考記事:本当に役立つ運送業のDX事例② 公的機関をうまく活用しながら進める物流DX
データの解釈の難しさとは、結局、思い込みとの戦いかもしれません。
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