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運送事業者だけではない。サプライチェーン全体を包括したDXに取り組むtraevoの挑戦

株式会社traevoアイキャッチ画像

目次

株式会社traevo代表取締役社長
鈴木久夫(すずき ひさお) 氏
一般社団法人運輸デジタルビジネス協議会に、理事・事務局長として参画。
ウイングアーク1st株式会社オープンイノベーション推進室から
2022年1月株式会社traevo 代表取締役社長​に就任。

株式会社traevo(トラエボ)
一般社団法人運輸デジタルビジネス協議会を母体に、運輸業界の「デジタルバリアフリー」を掲げて
誕生したプラットフォーム事業会社。
動態管理プラットフォームの社会実装を目指し、2022年1月に設立。
2022年9月より異なる車載器メーカー、動態管理サービスを横断して利用できる日本初の
業界横断型動態管理プラットフォーム「traevo」をリリース予定。
公式ウェブサイト

サプライチェーンのDXには「標準的な規格」が必要

まずは「株式会社traevo(トラエボ)」が設立された背景をお聞かせください。

サプライチェーンは荷主と着荷主、それに両者を結ぶ運送事業者で成り立っています。しかし、それぞれが長年にわたり独自のビジネスに打ち込んできたため、物流全体の視点に立った“標準的な規格”が誕生することはありませんでした。このプラットフォームを作り、サプライチェーンのトータルな効率化を目指して設立されたのが株式会社traevoです。

―”標準的な規格”がないことで、実際にどのような問題が生じるのでしょうか?

例えば運送事業者では、取引のある荷主の数だけデジタコやドラレコといった機器を車両に搭載していたりします。

また、荷物の到着が数分遅れる場合、ドライバーが「この程度なら連絡しなくてもいい」と判断するケースもあります。すると、着荷主から荷主に、荷主から運送会社に、運送会社から下請けや孫請け会社に……と、電話で問い合わせることになります。

世の中はシステム化が進み、スマホ一つで荷物の現在地を確認できる時代です。ところが、デジタコやドラレコといった機器の”標準的なデータ規格”がないため、企業間の垣根を超えてデータを共有できず、このようにアナログな手段を選ばざるを得ないのです。 さらに運送事業者では、企業間の連携が進まないことも一因となり、ドライバーの人手不足や健康への悪影響、不必要なトラックが走行することによる環境問題なども生じています。

運輸デジタルビジネス協議会で目指した業界全体の協力体制

そこで、各社が寸断されている現状をtraevoが変えていくわけですね。

2022年1月に当社が設立されるずっと前に、2016年8月に「一般社団法人 運輸デジタルビジネス協議会(TDBC)」が発足しました。

運輸デジタルビジネス協議会(TDBC)ウェブサイト

運送事業者は産業や社会の基盤であるもののその多くが中小企業です。さまざまな問題を前に各社単独では解決が難しく、共通する課題に協力して向き合う体制づくりが必要だったのです。

そこで運送事業者、荷主、着荷主だけでなく、車載機メーカーやICTなどの技術やソリューションを持つ支援事業者も集結して運輸デジタルビジネス協議会(TDBC)が立ち上がりました。2022年8月時点で、168の企業および団体が参加しています。

なおTDBCには「事故撲滅と実現のための乗務員教育」「運輸業界の人材、働き方改革」「SDGsおよび環境、エコドライブ」といったテーマごとに9つのワーキンググループがあります。その中で私たちは、約60の企業・団体と共に、2018年から「動態管理プラットフォームの社会実装と活用」について議論し、実証実験を続けてきました。

ワーキンググループ取り組むテーマ
WG01事故撲滅と実現のための乗務員教育
乗務員教育の取り組み事例研究と、デジタル機器活用による事故撲滅メソッドの追求
WG02健康経営の推進と健康課題解決
健康経営の推進と健康課題(睡眠、循環器、注意力・集中力、SAS等)の解決への取組み
WG03MaaSへの取り組み
人流分析による持続可能な地域の移動最適化と、働き方改革と地域活性化を両立するMaaS×ワーケーションの検討
WG04運輸業界の人材、働き方改革
改善基準告示による労働時間等の改善と賃金問題、人材不足など、コロナ禍における人材育成、採用と働き方改革、環境改善の取り組みなど
WG05動態管理プラットフォームの社会実装と活用
実証実験を終えた動態管理プラットフォームを社会基盤として新たな価値の創造やサービスを検討する
WG06運輸業界共通プラットフォームへのはじめの一歩からその先へ
RPAやシステム連携の簡便化によりコストをかけずに共通プラットフォームによって実現する「つながる世界」
WG07遠隔操作・自動化で実現する安全・安心な作業現場と迅速な災害対応
建設業における重機の遠隔操作と自動化による課題解決、新たな人材の創出、育成、災害救助・復旧の取り組み
WG08無人AI点呼実現への挑戦
非対面・無人点呼実現に向けて、特に乗務員の健康状態の確認にフォーカスしてAI、各種生体センサー等による実証、開発を行う
WG09SDGsおよび環境、エコドライブ
運輸業界でのSDGs推進と環境・エコドライブ等の実践の取り組み
TDBCのワーキンググループ一覧

そして、メンバーの多くから「物流業界に共通するインフラを立ち上げるべきでは」との声が上がり、traevoという事業および企業が生まれた次第です。

具体的にどのような実証実験を行ってきたのですか?

例えば2021年の夏には、約30の運送事業者と10社ほどのデバイスメーカーが参加し、車載器やスマホアプリから位置情報データを取得して可視化・共有化する実験を3カ月にわたり実施しました。

参加したある運送事業者は、営業所ごとに異なるメーカーのデジタコを使っていましたが、traevoがあれば全社的にデータを共有できるとわかりました。また、全国1万もの運送事業者との取引がある手配事業者では、指定場所に車両が到着したかどうかを複数メーカーの端末から確認できています。さらに、配送表とGPS情報から予定と実績を照合したり、クラウド型のデジタコ経由で車両の庫内温度の変化を可視化したりもしてきましたね。

traevo荷主企業向け画面
横断的に様々な機器・企業の車両がtraevo上で一元的に表示される

できることが一気に広がるようになりますね。

多くを実現できると思いますが、現在は「traevoに備えるべき機能は何か」を整理し、絞り込んでいるところです。発着通知や予実の照合などは実装する予定ですが、その他の機能についてはTDBCの会員に検討いただいたり、traevoパートナーにサービス展開をお願いすることなどを想定しています。traevoはあくまで「データ展開のためのプラットフォーム」の役割に専念したいと考えています。

物流DXに不可欠な「デジタルバリアフリー」

御社が目指すものは何でしょうか?

当社は物流業界だけでなく、サプライチェーン全体にまたがる情報が、「デジタルバリアフリー」となる世界を目指しています。当たり前のことですが、ひとつの「貨物」は荷主、元請、庸車、着荷主といった多くの企業が関わって運送されています。

貨物の情報は、各企業内ではデジタル化されています。しかし、現状では多くの場合において、そのデジタル化された情報が、企業間でシームレスに連携されているとはいいがたい状況です。デジタルバリアフリーな世界を実現するためには、物流各社で採用しているデジタコなどの車載器やシステムのメーカーがバラバラでも、位置情報など基本となるステータスデータが共有できる業界横断型の情報プラットフォームが必要です。そこで当社の母体であるTDBCのワーキンググループでは、そうした業界横断での情報共有を可能にする「動態管理プラットフォーム」の研究を始めたわけです。

誤解いただきたくないのは、当社が提供するものは動態管理「システム」ではなく、システム間を取り持つ動態管理「プラットフォーム」です。この仕組みは既存のプレーヤーとは一切競合することはありません。
またプラットフォーム開発にあたって大切にしたことは、オープンにすべきデータの選別でした。メーカー間での協調領域を整理した結果、「タイムスタンプ、緯度・経度、作業ステータス」であれば共有可能であると会員間で合意できたため、各社と協働してプラットフォーム事業を立ち上げることができました。

―traevo設立後、各社の反響はいかがでしょうか?

当社は2022年4月にTDBC会員から出資を受け、合弁企業(ジョイント・ベンチャー)になりました。その際に記者発表会を開いたところ、大手の荷主や元請け会社を中心に「無料トライアルを始めてみたい」との問い合わせが30件ほどありました。

株式会社traevo出資企業

ウイングアーク1st株式会社
鈴与株式会社
トランコム株式会社
株式会社トランストロン
矢崎エナジーシステム株式会社
株式会社首都圏ホールディングス
三興物流株式会社
茨城乳配株式会社
株式会社グローバルワイズ
株式会社データ・テック
物流企画サポート株式会社
一般社団法人運輸デジタルビジネス協議会

※ 出資額および50音順に表示

いずれの目的も「下請け、孫請け会社の車両を可視化したい」で、うち数社とは運用方法について具体的に話がまとまっています。「traevoなら何十、何百という下請け会社を一元化できる」と支持される機会も多く、事業は正しかったと改めて実感しているところですね。

なお、お客さまにデータを自由に使ってもらうには、低コストで提供しなければなりません。幸いなことに、当社は株主様、社外取締役ともにご理解をいただいており、事業目的は利益追求ではなく、あくまで業界に役立つ仕組みの普及促進を第一としています。

こうして「車両1台につき月額500円」という料金体系を実現している他、より多くの企業に使ってもらうために「機器類の追加は不要」「サービスや機器のIDを申請するのみ」「車両の位置やステータスを簡単に集約」といった特徴も掲げています。

運送業界にとどまらない社会貢献をしたい

この先、どのような展開が考えられますか?

まずは「車両動態管理(運行管理)のためのハブ」という役割に徹します。traevoはアプリメーカーやデバイスメーカーと協力して成り立つ仕組みなので、競合する気は全くありません。純粋に「みんなでビジネスできる場を提供したい」との考えですね。

冒頭でも話したとおり、このプラットフォームはサプライチェーンに向けて提供されます。その上でTDBCのワーキンググループでは「traevoの使い勝手や利用価値は十分に想定できる。今後はこのプラットフォームを土台にどんな社会貢献ができるか?」と議論しています。

直近では2022年のワーキンググループには57社の企業が参加しており、「CO2排出量を削減できないか?」「犯罪や事故の撲滅につながらないか?」という2点が社会貢献の可能性として挙がりました。この内容は7月7日に開催されたTDBCフォーラムでも発表され、TDBCサイトで公開されています。

TDBC Forum 2022 ワーキンググループ05の発表スライド
TDBC Forum 2022 ワーキンググループ05の発表の様子

例えば前者に関して、昨今はカーボンニュートラルに向けた規制が厳しく、荷主が運送事業者に報告を求めることが負担になっています。しかしtraevoで正確な走行距離を把握し、納品・出荷伝票のデータと連携させることによって積荷の重量を割り出せば、CO2排出量も自動的に算出されるようになります。さらに、1台のトラックに複数社の荷物が載っていても、電子化された伝票があれば「どの会社の貨物をどこからどこまで積んでいたのか」を自動的に計算できます。

そして、正しい走行距離が分かれば車両ごとの燃費が分かり「ある荷物を大型車両1台で運ぶのか、小型3台で運ぶのか、どちらが低コストか?」といった検討も可能になります。また、これまでCO2排出量の計算は国が定める“みなし燃費”を参照してきましたが、私たちの実証実験で「実際の排出量は机上の数値の半分程度だった」と判明した企業もありましたね。

―もう一つの「犯罪や事故の撲滅」では、どのように社会貢献できるのでしょうか?

物流のトラックはドラレコを積んでいることが多いので、防犯カメラの代わりになればと考えています。

警察は事故や事件が起きた際の時間と場所を特定しています。一方、当社では位置情報を把握している。なので、当社のユーザーが十分な数あれば、付近を走っていた車両を特定して運送会社の電話番号や車両番号を報告できる可能性があります。そしてその車両がドラレコを積んでいれば、その録画データを解析することで、解決につながる可能性が高まると思うのです。

もちろん、いずれもtraevoだけでは実現できないので、各企業や団体の協力を得ながら社会貢献に取り組みたいですね。

traevoは各社が手を組むためのトリガー

導入を検討されている企業にメッセージなどはございますか?

お問い合わせを頂いている企業の中には、自社の利益や効率化だけでなく「業界の仕組みを変えることで業界全体を改善したい」と、熱い思いを抱いている会社もあります。また、荷主の方々の自社の物流網に対する責任感が強まってこられたことも感じます。そのために、競合他社に声をかけ、業界全体を変えていこうという心持ちの方々も増えていますね。

一方、例えばビール業界はじめいくつかの業界では少数の大手企業が市場の大部分を占めていますが、各社が個別に自社製品を運んでいます。個社単位でみると効率を追及されていると思います。ただ、諸事情あるかと思いますが、業界全体から見ると非効率な側面があるかもしれません。もし私たちが各社が協調するためのハブになることができればこれほどうれしいことはありません。こういった業界内外を問わず物流の全体最適に貢献していきたいと考えています。

―デジタルタコグラフの果たす役割についてはどのようにお考えですか

やはり、運送業のDXということを考えるとデジタコは一つのキーです。運送事業者の日々の仕事を、デジタコを搭載して運用をすることで、ごく自然に、自動的に、しかもきれいなデータとして取得できます。

また、デジタコメーカーには、我々の目指す未来像に賛同し、快く協力してもらえたことにも感謝しています。おかげでtraevoは市場の大部分のデジタコに対応することができました。これが1部の製品だけでは、業界にインパクトを与えられなかったと思います。

―最後に、今後の目標をお聞かせください。

2025年までに貨物用車両20万台、事業用トラックの約14%をカバーすることを目指しています。国土交通省の「物流を取り巻く動向と物流施策の現状について」によると、トラック輸送に関わる方々は194万人と推定されています。彼らの仕事に対するイメージを向上させ、人手不足など諸問題の解消に貢献していきたいですね。

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