目次
- 国内で最も物流パレットを供給している会社の共同輸送への取り組み
- 産学連携で開発したAIが数十秒で共同運送のマッチングを成立させる
- 21万台稼働、6,500社導入の富士通デジタコとのAPI連携でマッチング精度のさらなる飛躍
- やりたいことを理解してくれるトランストロン。TranOptは企業ごとのライセンス展開も
日本パレットレンタル株式会社 事業企画部 輸送マッチング推進グループ グループ長 渡邉 安彦(わたなべ やすひこ)氏 ITベンダにおいて、SE、コンサルタント、営業、新規事業企画・開発を経験。 日本パレットレンタルでは、新規事業企画・開発に従事し、 共同輸送マッチングサービス「TranOpt」の事業の責任者として昨年10月に立上げ。 日本パレットレンタル株式会社 約1100万枚のパレットを保有する国内シェア1位のレンタルパレットサプライヤー。 製造業に供給したパレットを卸売業や小売業で回収して整備・再供給する共同回収が強み。 多様な業種、地域の顧客をつなぐ事業の特性を活かして共同輸送マッチングに取り組んでいる。 公式ウェブサイト
国内で最も物流パレットを供給している会社の共同輸送への取り組み
――初めに、御社がどのような事業をされているのかお聞かせください。

日本パレットレンタルという社名の通り、物流パレットの貸し出しを主な事業としています。パレットとは、まとめて置かれた荷物の下に敷いてある板のことで、側面に差し込み口があり、フォークリフトで運びやすくなっています。地味な存在ですが、物流業界における作業をかなり効率化していますね。
――パレットがないと、どうなるのでしょうか?
物流業に携わるあらゆる方々が手で荷物を運ぶことになります。相当な労力がかかることになり、現実的ではありませんよね。パレットはまさに“縁の下の力持ち”なのです。
パレットといってもさまざまな形状があり、当社で扱っているのは1.1m四方の「11(イチイチ)型」と呼ばれる規格のものです。飲料、加工食品、日用品の業界では“標準”として採用されていて、レンタル業界ではトップのシェアを誇ります。パレットに関して「国内で最も供給している会社」といっても過言ではありません。

――それはすごいですね! 御社はパレットのレンタルに加えて「共同輸送」にも着目されているそうですが、どんな仕組みなのでしょうか?
街に出ると多くのトラックが走っていますよね。しかし、国土交通省の「自動車輸送統計年報」という資料によると、2020年の営業用トラックの積載効率は、わずか40%程度です。積載率とは、荷台に対してどれだけ荷物を載せているかという割合なので、ほとんどの車両に空きが生じていることになります。

――何も載せないで走っていたら何だかもったいない印象ですね。バスや電車でも、乗客がいなければお金をいただけませんし。
例えば東京から大阪に荷物を運ぶトラックで考えてみます。大阪で荷物を下ろした後は事務所のある東京に戻ることになりますが、この復路において空のまま走行している便が非常に多いのです。こうした車両がある限り、高速道路の渋滞やCO2排出量の増加といった課題はなかなか解消されませんよね。
――そこで共同運送がポイントになってくるのですね。
これまで物流業者は自社のみで荷物を運んできましたが、今後は他社のトラックにも積載し、効率化を図ることが重要です。先ほどの例では「大阪から東京に向かう空きスペースのある便」と「大阪から東京に送る荷物」をいかに適合させるかが鍵で、1台ごとの積載率を上げれば本当に必要なトラックのみが走行することになります。
物流業界の課題だけでなく、社会問題の解決にもつながりますよね。そのため、当社も全力で貢献しようと共同輸送に臨んでいるのです。
産学連携で開発したAIが数十秒で共同輸送のマッチングを成立させる
――なるほど。だから御社では、共同輸送マッチングサービスの「TranOpt(トランオプト)」を提供しているのですね。

開発の背景として、2018年からライオン株式会社、キユーピー株式会社、そして当社で始めた共同輸送のプロジェクトがあります。99%超という高い実車率(全体の走行距離のうち、荷物を積んで走った距離の割合)で、トラックだけでなくフェリーも利用することでCO2排出量を低減しています。省労働力化も実現し、3社で国土交通大臣表彰を共同受賞しましたね。
――共同輸送の効果や重要性を実際に確認できたのは大きいですね。
さらに当社では、これまで各営業担当者が自らの手腕やネットワークでお客さま同士をマッチングさせてきましたが、その知見と当社のパレット移動データを活かしたAIによる共同輸送マッチングサービスの構想を、2019年 に国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業に応募し、採択されました。AIについては群馬大学と明治大学との産学連携で研究開発し、このAIを組込んだシステムがTranOptなのです。また、AIは昨年特許出願しました。
――おお! 人工知能の登場ですね。
多くのお客さまと取引のある当社が輸送経路などをデータベース化し、今度は営業担当者に代わってAIが業界・業種を超えてマッチングしていきます。しかも、経路や想定運賃、荷量の需給、季節変動なども踏まえて適合させるため飛躍的な効率化が期待できます。ちなみに、試用期間中のマッチング候補の実車率は平均93%という結果が出ました。
――ところでTranOptは、どのように導入して利用するのでしょうか?
AIを搭載した会員制のWebシステムだとお考えください。ソフトウェアのインストール等は不要でWEBブラウザがあれば利用できますよ。会員登録やマッチングの検索等のサービスの利用は無料で、成約時に手数料が生じる成功報酬型と月額制の定額利用型が選べます。現時点ではおよそ130社が利用中です。
――成功報酬型であれば、成約しなければ無料なのでいろいろな機能を試せますね。御社はすでに共同輸送の実績があり、100超の企業データを活用できるのも頼もしいです。
AIを使っている同様のサービスはほかにないと思います。さらに、全国を絶えず移動している当社のパレットの移動データが反映されるのも当社ならではのアドバンテージですね。マッチングを申し込むと、数十秒から数分で結果が出るというスピード感も自慢です。

――たった数十秒ですか……
空きのあるトラックも、それを探している荷物も見つかる他、輸送経路は車両だけでなく鉄道や船舶からも選べます。また、マッチングが申し込まれた経路、全国的な需要の高低、他社が探している人気のルートなども表示でき、運賃やCO2の削減効果を事前にシミュレートできるのも特徴です。
21万台稼働、6,500社導入の富士通デジタコとのAPI連携でマッチング精度のさらなる飛躍
――御社はトランストロンを通じて富士通デジタコとのデータ連携の実証実験を始めましたが、その経緯をお聞かせください。
TranOptはAIを利用するため、登録されているルートデータが多いほどマッチング精度が高まります。そのためシェアが高く、各社のトラックの発着地や年間出荷便数などの情報を吸い上げてくれる富士通デジタコは魅力的でした。
またTranOptでは、こうした鮮度の高い情報をお客さま自ら入力するため手間になるのではと感じていましたが、富士通デジタコはクラウド型なので自動的に反映してくれます。ユーザビリティを向上させつつ、共同輸送マッチングの確率と精度を高められる点も決め手になりました。
プレスリリース:デジタコのデータと共同輸送マッチングシステムを連携
――機械も人間も、大事なのは相性なのですね。
さらにトランストロンが、いすゞ自動車株式会社と富士通株式会社と3社共同でデータプラットフォーム事業を立ち上げたこともきっかけになりました。TranOptとも連携しやすいと判断し、2021年6月からトランストロンと共にAPI連携のプロジェクトを進めています。
「API」…Application Programming Interface/異なるアプリケーションやソフトをつなげる仕組みのこと
デジタコからのデータ連携で、ユーザーは手間をかけずにマッチングができるように。そしてTranOptは企業ごとのライセンス展開も。

――富士通デジタコとのAPI連携により何を期待しますか?
トランストロンのお客さまで共同輸送に興味がある企業があれば、すぐにTranOptを紹介・導入できます。先ほども話した通り、クラウドデジタコに蓄積された車載情報を自動的に活用できるので、手間をかけずに共同輸送の機会を提供できるでしょう。
――実証実験はどのようなものになりそうですか。
丸嶋運送株式会社の協力を得て、同社のクラウドに蓄積されている富士通デジタコの車載情報から対象データをTranOptに取り込み、簡単に共同運輸マッチングにつなげられるか検証する予定です。すでに準備は整っていて、あとはスタートを切るだけですね。
―最後にTranOptを含め、共同運送の見通しをお聞かせください。
2024年問題や環境負荷などの課題解決を追い風に、これからもマッチング成立を増やしていきたいです。引き続きTranOptの会員を募るとともに、システム自体を企業にライセンス展開するというビジネスモデルも成長させたいですね。こちらは多くの系列会社を抱える企業などに適し、グループ内の輸送効率化を図るツールとして、すでに数社で役立てられています。ドライバーの人手不足解消やCO2排出量の削減が期待されていますね。
「2024年問題」…働き方改革関連法によって2024年4月1日から運送事業者のドライバーの時間外労働時間の上限が 年間960時間までに規制されることで、日本の商品を運ぶキャパシティそのものが低下するのではないかという 予測を指す。上述の労働人口の高齢化とともに、物流危機を引き起こし、2030年には日本の物流の需給ギャップが 35%程度になるのではないかという予測もある。
さらに、化学品に特化したマッチングも始めています。毒物や危険物は食品などと共同輸送が難しいため、化学品業界内の共同輸送のさらなる効率化を期待しています。やや話題がそれますが、社内ではDXが進められていて、輸送時の伝票を電子化するシステムもリリース予定です。
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