目次
- 物流DXがなぜ重要なのか?
- 物流DXはすべての運送事業者に関係がある話
- 物流DXを進めるのにまず何が必要なのか?
- データは必要不可欠だが、それだけでは役に立たない
- デジタコデータとアプリケーションのAPI連携を加速する「マーケットプレイス」が始まる
- 今後は運送事業者もサービサーも、どんどん使いやすく
株式会社トランストロン 情報サービス開発部 部長 / 磯谷公嗣(いそがい まさつぐ) 株式会社トランストロン情報サービス開発部部長。 富士通デジタコの開発責任者。 三現主義をモットーに全国の運送事業者の現場へ飛び回る。 趣味はサウナ。水風呂グルシン(水温ひとケタ)主義者。 株式会社トランストロン 富士通51%、いすゞ49%の資本が入った合弁会社。1990年設立。自動車用電子制御ユニット、各種センサー、 各種アレイマイクおよび、富士通ブランドのデジタルタコグラフを開発、販売している。 富士通デジタコは2022年6月現在、約21万台が稼働、約6,500社の運送事業者が導入しており、 同社のクラウド上に日本最大の商用車データが蓄積されている。 本サイト「みんなの物流DX」の運営元でもある。 株式会社トランストロン公式サイト
物流DXがなぜ重要なのか?

物流業界における喫緊の課題はドライバーの人手不足です。より正確にいうと、若い働き手を雇用できずに高齢化が進んでいる状況です。私の認識では50歳を超える運転手が全体の45%以上を占め、一方で29歳以下の若手は約10%にとどまります。

このように、半数近いドライバーが年齢を重ねて体力、判断能力などが衰えていく中、健康面に起因する交通事故も増えています。近年、国土交通省などの取り組みで事故の発生件数そのものは減少傾向にありますが、物流業界だけは運転手の高齢化を理由に増加しているのが特徴です。
また、業界は間もなく働き方改革法案に伴う「2024年問題」と向き合うことになります。自動車運転業務に携わる人の時間外労働が年間960時間までに制限されるため、特に片道600km以上を走行するような長距離ドライバーは、従来のように単独では業務を遂行できなくなる可能性が出てきます。1人の運転手が担える走行距離は短くなり、交代要員を用意したり、他社の協力を得たりと、体制の切り替えに追われることでしょう。
「2024年問題」…働き方改革関連法によって2024年4月1日から運送事業者のドライバーの時間外労働時間の上限が 年間960時間までに規制されることで、日本の商品を運ぶキャパシティそのものが低下するのではないかという 予測を指す。上述の労働人口の高齢化とともに、物流危機を引き起こし、2030年には日本の物流の需給ギャップが 35%程度になるのではないかという予測もある。
さらに運輸業は、1989年に制定され1990年に施行された物流二法などによる規制緩和を受けて新規参入が増加しました。現在は従業員30人以下の業者が全体の約80%を占め、互いに激しく競合している状態です。各社が受注を目指して輸送費を下げ、孫請けやひ孫請けも当たり前になり、利幅が薄くなるためドライバーの収入も下がってしまいます。仕事内容がハードな上に給与が少なければ、若者が魅力を感じられず、人手不足を招くのは必然です。

これら山積する課題に対するアプローチとして、重要視されているのが物流DX(デジタル変革)です。ITやデジタル技術を上手に用い「効率的かつ安全な走行」はもちろん「ドライバーの健康を守る」「職種の地位を向上させて若手を引き付ける」といった取り組みが始まっています。
物流DXはすべての運送事業者に関係がある話
物流DXは大手企業のみに関連する出来事ではありません。確かに、ひと昔前は運行管理を効率化するために大掛かりなシステムを組む必要があり、数百万円という高額な費用を支払わなければなりませんでした。しかし現在、DXの第一歩であるデジタコは、例えば当社で扱っているクラウド型はリアルタイムな車両の位置情報や運転手のステータス通知などの機能が付いて1台につき月額1,480円から導入できます。つまり大企業のみならず、80%の中小零細企業でもDXを始められるのです。
物流DXを進めるのにまず何が必要なのか?
ところで、物流DXを始めるには何から着手すればいいのでしょうか。まず必要なのは車と人に関するデータを取得することです。車両では速度や移動距離、所要時間、走行ルートなど、人間では運転技術や勤務時間といった現状を知り、管理方法を改善していくのです。
データ取得のためには、やはりデジタコが最適でしょう。当社が提供する製品は、先ほど述べた通り、車と人のデータをリアルタイムに伝えます。また、ドライバーが事務所に戻る前に日報や帳票が自動で作成され、勤怠も労働基準法および改善基準告示、変形休日制に基づいて自動的に計算されます。日々の業務内容をわざわざ入力する手間がなく、運行管理者も各種数値を把握できるようになります。

ちなみに、当社が扱うデジタコの主力はドライブレコーダー搭載モデルです。さらに最新型は専用のナビゲーションシステムを備え、車両の大きさをインプットすれば確実に通れるルートのみを案内してくれます。
関連ページ:富士通デジタコ公式サイト
データは必要不可欠だが、それだけでは役に立たない
デジタコを導入すれば、まずはDXのスタートラインに立てるでしょう。しかし、現在は法改正によって運行管理者が確認すべき事項が増え、現場の“見える化”だけでは業務が追いつかなくなっています。つまり、デジタコはこれまで「目」としての役割を果たしてきましたが、今後は「頭脳」になる必要があるのです。
日々刻々と状況が変わる中、最適なルート、突然の渋滞や交通規制などを加味しつつ、瞬時に「この解決策が適切でしょう」と提案できなければなりません。また、ドライバーからのフィードバックを踏まえてPDCAを回し、計画、運行、振り返りを掘り下げながら、彼らの体調さえ管理するような仕組みが求められます。
そのためには、デジタコで取得したデータをさまざまなアプリケーションやシステムに連携させると、より便利で幅広い活用方法が見えてくるでしょう。当社が提供するデジタコはクラウド型のため、マーケットプレイスを利用して多様なウェブアプリとつながり、取得したデータを解析、組み合わせて適切なプランを提案できます。
例えば車では、安全面の情報はもちろん、食品を運ぶトラックの庫内温度を表示したり、タイヤの空気圧を知らせたり、あるいは蛇行による荷崩れの可能性を伝えるなど、輸送品質の向上を目指せます。また、ドライバーではアルコールチェッカーをはじめ、さまざまなセンサーとつなげて血圧や脈拍などの数値を得ることで、眠気やストレス、疲労、薬の服用の有無といったステータスがわかります。
人手不足の解決策としても、言語、ルート設定、作業手順などの問題をアプリでクリアすることで、女性や外国人ドライバーの採用増が見込めるかもしれません。
もちろん、取得したデータは基幹パッケージシステムにも活用できます。荷物に対する運行計画の立案、請求書の作成、ドライバーの給与計算、さらにはバスの予約システムにもワンストップでつながることが可能です。これまでデジタコのみでは、こうした管理業務とは連携できませんでしたが、今はさまざまな計算・分析が自動的に進むようになっているのです。
デジタコデータとアプリケーションのAPI連携を加速する「マーケットプレイス」が始まる

これまでお話ししてきたように、お客さまの業務が多様化する中、従来は各社の課題に合わせて数百万円のパッケージシステムを構築するのが主流でした。しかし今は、一つずつ作り込んでいたのではあまりにも時間がかかり、競合相手に後れを取ってしまいます。
そのため迅速かつ安価で、しかも高品質な仕組みを提供できる、デジタコデータとアプリケーションの連携が求められているのです。大手の運輸業者のみならず、まさに物流を支える80%の中小零細企業も導入できるようなサービスです。
すでに当社の20万台以上のデジタコが全国で稼働しています。日本の商用車の総数は約100万台とされていることから、およそ20%のトラックやバスにトランストロン提供のデジタコが搭載されている計算になります。しかも、我々はこの20万台、およそ6,500社から取得したデジタコデータを外部アプリケーションと連携させるためにAPI(Application Programming Interface/異なるアプリケーションやソフトをつなげる仕組みのこと)を用意しています。これにより、各事業者が必要とするアプリケーションの導入が飛躍的に促進されると確信しています。
また、それだけにとどまらず「忙しい運送事業者がいかに簡単にアプリケーションを見つけられるか」も重要なポイントです。そこで我々は、当社が提供するデジタコの運行管理サービス「ITP-WebService V3」の画面上から、APIを利用して作られたアプリケーションを探せる「マーケットプレイス」も整備しました。
このマーケットプレイスを介して、当社がサポートする6,500社は適切なアプリケーションを探せる上、ベンダーもストアを通して6,500社に自社アプリを訴求できます。APIによるデータ連携だけでなく、そうしたマッチングの場も当社が提供することで、運送事業の課題を解決する一助になれればと考えています。
今後は運送事業者もサービサーも、どんどん使いやすく

今後はデジタコをハブにし、求荷、車両の保守管理、安全指導なども含めて運送業者と各種サービスをよりダイレクトにつなげていきたいです。
また、ある雑誌によると2027年には14万人のドライバーが不足し、2030年には物流において36%の供給不足が生じるとのことです。業界が抱える問題は非常に深刻で、私たちが低価格かつスピード感を持って次々と製品やサービスをリリースし、ドライバーを持続可能な仕事にしなければならないと感じています。「物流を支える80%の企業が良い方向に向かわなければ業界は変わらない」との思いは、これからも持ち続けていきます。
運転手の健康管理も「この運送会社で働くと健康になれる」のように、プラスのイメージが湧くような仕組みを構築したいものです。最初は小さなインパクトかもしれませんが、次々と展開させていき「ドライバーになりたい」という人を少しでも増やしたいです。
そのためにも、まずは使いやすさを重視したユーザビリティと、マーケットプレイスによる課題解決の幅広さに着目していきます。また、こうして機能の幅が広がる中、いかにして本当に必要な情報を運行管理者やドライバーに提案できるかがポイントになると考えています。