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現在、運送業界で大きな話題となっている「2024年問題」。 ドライバーの時間外労働の上限が規制されることは知っていても「どのような影響が出るのか」「どんな対策をしたらいいか」について、 完全には理解していないという方も多いのではないでしょうか。 そこで今回は、2024年問題が運送業界に与える影響ほか、働き方改革関連法の詳細、物流業界が抱える課題とその対策方法について解説します。
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2024年問題とは?働き方改革関連法が物流&トラックドライバーに与える影響

2024年問題とは、自動車運転業務に対して働き方改革関連法の適用が2024年にスタートすることで懸念される諸問題を指します。
働き方改革関連法は2019年に施行されていますが、物流・運輸業界ほか、建設業、医師など一部の事業や業務については、早急な対応が難しいと判断され、5年間の猶予期間が設けられました。
働き方改革関連法とは
働き方改革関連法は、2018年に公布され、2019年より段階的に施行されている法律です。
労働基準法など、働き方に関連する法律を改正することで「労働者個々人の事情に応じた、多様な働き方を選ぶことができる社会の実現」を目指します。
なお、働き方改革関連法が施行された背景には、少子高齢化に伴う労働力不足、長時間労働の慢性化、育児や介護の両立など、柔軟な働き方が可能な環境が整備されていないことが挙げられます。
物流業界に与える影響
物流業界における働き方改革関連法は、2024年4月1日の施行です。労働環境の改善が期待される一方、企業の収益に大きな打撃となる可能性も考えられます。
具体的には、労働時間の規制によって運送できる荷物の量が減少したり、時間外労働の賃金負担が増えたり、これまでの業務をこなすためにドライバーの数を増やしたりなどすることで、物流・運輸業者の利益・売上が減少する恐れがあるのです。
なお、働き方改革関連法案に違反した場合「6か⽉以下の懲役または30万円以下の罰⾦」が課される可能性があり、さらに物流企業としての社会的信用を失う危険もあるため、しっかりと法令を遵守することが求められます。
トラックドライバーに与える影響
働き方改革関連法案の施行により、物流企業だけでなくトラックドライバーの収入も減少する可能性が考えられます。労働時間が規制されれば、乗務時間も減少し、それに伴って歩合も減少するからです。
なお、収入の減少がトラックドライバーの離職につながり、さらなる人材不足を招く懸念もあります。
働き方改革関連法で物流業界はどう変わるのか

物流業界における2024年までの大きな動きは、以下の3つです。
- 時間外労働の上限が規制される
- 中小企業で時間外労働の賃金負担が増える
- 勤務間インターバル制度の導入
2024年の働き方改革関連法施行で変わるのは「時間外労働の上限規制」のみですが、他2つも重要であるため、しっかりチェックしておきましょう。
時間外労働の上限が規制される
物流・運送など自動車運転業務に携わるドライバーに対しては、これまで、時間外労働の上限は設けられていませんでした。
しかし、2024年4月1日より特別条項付き36(サブロク)協定が締結されれば、年間の時間外労働が「960時間」に制限されます。
年間960時間とは月80時間で、他職種と比較しても長めの時間外労働です。しかし、全日本トラック協会が発表した「第4回 働き方改革モニタリング調査について」(※1)によれば、時間外労働時間が年間960時間超のドライバーが在籍する業者の割合は、27.1%でした。
つまり、物流運送業者の1/4以上が、2024年問題への対応が取れていないことになります。
タイムリミットが迫る中、まだ業界として時間外労働の上限規制適用への対応が不十分である現状が浮き彫りとなりました。
※1:「第4回働き方改革モニタリング調査について」公益社団法人 全日本トラック協会 2022年3月発表
中小企業で時間外労働の賃金負担が増える
これまでは、月60時間超の時間外労働に対して「大企業で50%、中小企業で25%」の割増賃金の支払いが義務付けられていました。
しかし、時間外労働規制よりも1年早い2023年4月より、中小企業も、月60時間超の時間外労働に対して「50%の割増賃金」を支払う必要が生じます。
上限規制に合わせて時間外労働を年間960時間(月80時間)に抑えても、年間240時間(月20時間)分の賃金は、これまでの倍となり、中小企業の賃金負担が大幅に増加することとなります。
なお、トラック運送業者は全国に62,000以上存在しますが、99.9%が中小企業であるため、ほぼ全ての業者で「時間外労働の賃金負担が増える」ということができるでしょう。
勤務間インターバル制度の導入
勤務間インターバル制度とは、終業から次の始業までに、一定以上のインターバル(休息時間)を設けるための制度です。
物流・運輸業界のドライバーには、これまで改善基準告示で「8時間以上のインターバル」が義務づけられていました。
しかし2022年5月開催の「第5回 労働政策審議会労働条件分科会自動車運転者労働時間等専門委員会トラック作業部会」では、インターバルの義務づけが「9時間以上」、さらに「11時間以上のインターバルを与えるよう務めること」と呼びかけられています。
2024年からこのように改善基準告示が改められる可能性があるため、企業側もこれを見越して、無理のない運行計画にシフトしていくことが望ましいでしょう。
物流業界が抱える課題

働き方改革の施行によって、労働環境改善の期待が高まる一方、企業側の負担が増加することで物流業界が抱える課題が、より深刻なものになる可能性も考えられます。それでは、そもそも「物流業界が抱える課題」とはどのようなものでしょうか。現在の物流業界が抱える課題として、以下の4つを見ていきましょう。
- 働き手/人材の不足
- 長時間・低賃金の労働環境
- ドライバーの高齢化
- EC市場の拡大と物流量の増加
働き手/人材の不足
国土交通省の資料(※2)によれば、2018年4月時点の全職業(パート含む)の有効求人倍率が1.35であるのに対して、貨物自動車運転手(パート含む)は2.68となりました。
つまり、貨物自動車運転手は他の職種と比較して、求人に対して求職者(働きたい人)が少ないことが分かります。
実際に、全日本トラック協会の資料(※3)によれば、「景況感調査」の雇用状況(労働力の不足感)の数値は2009年頃から上昇。令和元年7〜9月期の数値は85.0となり、現在、トラック運送事業者が強い労働力不足を感じている実態が浮き彫りとなりました。
※2:「トラック運送業の現状等について」国土交通省
※3:「トラック運送業界の現状と課題、取組について」全日本トラック協会
長時間・低賃金の労働環境
国土交通省の資料(※4)によれば、トラックドライバーの労働時間は全産業の平均と比較しても長く、大型トラックドライバーでおよそ1.22倍、小型トラックドライバーでおよそ1.16倍でした。
長時間労働の原因の1つとしては、荷待ちや荷役時の時間が長いことが指摘されています。
また、トラックドライバーの年間所得も、全産業の平均と比較しても少なく、2016年では全所得の平均年間所得額が490万円であるのに対して、大型トラックドライバーが447万円、小型トラックドライバーが399万円となりました。
※4:「トラック運送業の現状等について」国土交通省
ドライバーの高齢化
厚生労働省の資料(※5)によれば、全産業の平均年齢が43.2歳であるのに対して、大型トラックドライバーは49.4歳、小型トラックドライバーが46.4歳でした。
また、全産業と比較して、道路貨物運送業における40代〜50代前半の就業者人数は10%ほど多く、対して、29歳以下の若年層は6%ほど少ない結果となりました。
現在、物流・運送業界に従事するドライバーが高齢化している一方、若い担い手も少ないため、将来的に働き手/人材の不足の深刻化も懸念されます。
※5:「統計からみるトラック運転者の仕事」厚生労働省
EC市場の拡大と物流量の増加
国土交通省の発表(※6)によれば、宅配便の取扱個数は、2008年度の32.1億個から、2017年度には42.5億個まで増加しました。
これによって通常の配達のみならず、再配達の負担もさらに増加することが懸念されます。
なお、宅配便の取扱個数は、EC市場の規模拡大に比例しています。実際に経済産業省のニュースリリース(※7)によれば、国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)の市場規模は右肩上がりとなっており、2010年のおよそ7.8兆円から、2019年にはおよそ19.4兆円まで拡大しています。
EC市場の拡大に伴い、物流量も増加したことで、業者の負担も増大しています。
※6:「宅配便の再配達削減に向けて」国土交通省
※7:「電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」経済産業省
物流業界の課題への対策〜DXの導入・推進

現在の物流業界は、働き手/人材の不足、長時間・低賃金の労働環境、ドライバーの高齢化、EC市場の拡大と物流量の増加といった問題を抱え、それらが影響しあって、悪循環を生み出しているような状況です。さらに2024年には、時間外労働の条件が設けられます。
増加を続ける物流量に対応するためには、新たな人材を確保しなければなりませんが、それも簡単ではない状況と言えます。これまで物流・運送業界はマンパワーでニーズに応えてきましたが、その限界が近づきつつある状況と言えるでしょう。
そこで抜本的な解決策となり得るのが「物流DXの導入・推進」です。
物流DXは「物流の機械化」「物流のデジタル化」に大別でき、具体的な内容としては、輸送や庫内作業の機械化・自動化、手続きの電子化、配車手配や倉庫マッチングのデジタル化、動態管理システム導入による配送の効率化と日報・月報の自動作成、などが挙げられます。
業務やソフト・ハード両面の標準化を推進することで、2024年問題への対策を見越した、よりスムーズな物流DX化が実現できることでしょう。
国土交通省が推進する物流DX
日本政府は1997年より「総合物流施策大綱」を作成。以来、国土交通省ほか、経済産業省、環境省など、関係省庁の連携によるトータルな物流施策が推進されてきました。
そして、2021年に閣議決定された最新の「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」においても、今後の物流が目指す方向として「物流DXや物流標準化によるトータルなサプライチェーンの最適化」が真っ先に掲げられています。
なお「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」においては、物流DXを「機械化やデジタル化を通じて、物流のビジネスモデルやあり方を革新させていく取り組みの総称」といった旨で定義されています。
まとめ

多くの課題を抱え、さらに2024年問題にも直面する物流・運送業界。それを危機と捉えることもできる一方「物流のビジネスモデルやあり方を革新させる大きなチャンス」と捉えることもできるでしょう。
2024年問題にしっかりと対処することは、働きやすい環境を整備して、若者や女性の参入を増やすためにも不可欠です。
限られた労働力で最大限のパフォーマンスを発揮し、お客様により良いサービスを提供するためにも、テクノロジーも有効に活用しつつ、社内体制の改善・改革に乗り出すことが求められます。
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